SS2

□巣作りドラゴン〜プロポーズ
1ページ/1ページ

その頃スネークは伴侶を亡くして一月ほどで悲しみのウチにいた。
これが王の一族の代償であることは分かりきっていたし、覚悟はしていたつもりだった。
しかし始めての伴侶を失った空虚感はなかなか埋められず。
周囲から次の伴侶を、と言われたところでそんな気には到底なれなかった。
そう。
悲しみと言うより空虚。
何かがぽっかりと穴をあけ、スネークの足元に広がっていた。
墓前に来ても何も思うことがない。
目の前に広がる水平線を前にただスネークは毎日立ち尽くした。



あるとき視線を変えるとスネークは丘の下の野原に何かを見つけた。
花に囲まれて何か金色に光っている。
それは良く見ると真ん中で大の字で寝ている子供の髪の毛が日の光に反射したものだった。
まだ四つか五つくらいだろうか。
気持ち良さそうに眠っている。
それから何度かその子供を見かけるようになった。
よくここへは遊びにきているようだ。
おそらく自分が気付かないだけだったのだろう。
いつも一人で何が楽しいのか走り回ったり花を摘んだり、かと思えばまた大の字になって寝ている。
その日はたまたまその子供と目が合った……気がした。
何故ならその子供がどんどんこの丘に登ってくるからだ。
その子供ははぁはぁと息を切らせながらスネークの側まで走ってきた。
「あんたナニしてんの?」
子供は第一声にそういった。
必死に走ってきた白い頬は真っ赤にそまり先ほどまで寝転んで遊んでいた柔らかそうな金髪には葉っぱがついている。
それが気になったスネークはそれを取って髪を整えてやる。
「オレとあそぶ?」
それを気にすることも無く子供はニコニコとスネークに笑いかける。
どうやら丘の上にポツンと座るスネークが暇そうに見えたらしい。
それを遊び相手を見つけたと思い駆け上がってきたのだろう。
「いや、…う〜ん…、今はそんな気分じゃないな」
「なんで?」
無邪気に聞いてくる顔は愛らしく、なんとも断りづらい。
「……お前こそなんでこんなところで一人で遊んでいるんだ?友達は?」
誤魔化すように今度はスネークが質問すると子供はその可愛らしい顔を一瞬曇らせ不貞腐れたように頬を膨らませた。
「トモダチなんていない」
「何故だ?」
この人懐こさなら友達は多そうに見えた。
「だってあいつらオレのことバカにするんだ」
「なんでだ?」
「……しらない」
言いたくないのか口をぐっと噛みしめる。
泣き出すかと思われたがその子供の目はむしろ強い意思でキラキラとしていた。
「あんたもトモダチいないの?」
「ん?俺か?……そうだな。とっても仲のいい人がいたんだけどいなくなってしまったんだ」
「どっかいっちゃったの?」
「あぁ、どこかいってしまった」
「そっか……さみしいの?」
「そうだな。さみしいな」
「おとななのに?」
「大人だって一人は寂しいさ」
「ふ〜ん」
分かっているのかいないのか、首をかしげて子供はスネークを珍しいものでも見るように見上げる。
「オレはひとりでもへいき」
「ほんとうに?」
「なれてるもん、ほんとだよ」
「どうすればお前のように強くなれる?」
「しらないよ。そんなの、あんたおとなでしょ?わかんないの?」
「わからないなぁ」
分かったらきっとこんなところで呆けてはいないだろうと思う。
「ふ〜ん、じゃあオレがトモダチになってやってもいいよ」
「お前が?」
「あぁ、オレがなってやるよ。ちょっとしゃがんで」
なんだろう?とスネークがしゃがむと子供はスネークの頬に優しくキスをした。
「オレのおかあさん、ヤクソクするときこうするよ」
「約束か?」
「うん」
「そういえば名前は?」
「カズヒラ。あんたは?」
「……スネークだ」
それから何度かスネークとカズヒラはその丘で遊んだがしばらくするとカズヒラはそこに来なくなってしまった。
年齢的に学校へ通う歳になったんだろうな、とスネークは思った。
その後はカズヒラのことを調べ次第に育っていく様を影から見守り次の伴侶に選ぶのはこの子しかいないと……。




「ちょっと待った!」
しばらくは黙ってスネークの話を聞いていたカズヒラだったがさすがに待ったをかけた。
「それ、全然結婚の約束なんてしてないじゃん!友達になるっていっただけじゃん!」
「俺の亡くなった伴侶の変わりになってくれると言ったんだからそう変わらないだろう?」
「変わる!全然違う!」
思わずカズヒラは頭を抱えた。
そんなちょこっと遊んだだけの関係なんて覚えてるわけがない。
学校に入ってからは同年代の友達も出来、そんなはるか年上の友達なんてあっという間に忘れたに違いない。
「第一…すぐに次の伴侶を選ぶように言われてたんだろう?どうやって今まで待ってもらったんだ?」
「正直に言っただけだが?もう選んだ子がいるからその子が成人するまで待ってくれと」
「…………それを飲んだ側近もすごいな」
「なんだ……やっぱり嫌になったのか?結婚……」
イキイキと話していたときとは反対にすっかり肩を落とすスネーク。
その肩にカズヒラは手をかけ苦笑した。
「だから言ったろう?やりなおしたいんだって」
「やりなおし?」
「あぁ」
カズヒラは両肩に手をかけスネークと目を合わせた。
そして彼から初めてその唇にそっとキスをした。
「俺でよければあんたと結婚してやるよ」
「………………」
「嫌?」
「……とんでもない。お前でなけりゃ困る。ずっと待ったんだ」
強く抱きしめてくるスネークの力が少し痛かったがあたたかさが心地よかった。
何も怖いものなどなさそうな王様もずっと一人でずっと寂しかったんだと気付いた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ