SS2

□博士の異常な愛情
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「博士!ちょっといいか!」
研究室に無遠慮に入ってくる足音。
「あぁ、ミラーか。なんの用だ?」
いつもは自分の城である研究室に他者が入ってくることをあまり好まないストレンジラブには珍しく微笑しながら相手を出迎えている。
ヒューイは憮然とした面持ちでそれを傍から眺めた。
(僕だって彼女の研究室に出入りできるようになったのはつい最近なのに……)
そりゃあ、このMSFの副司令に嫌な顔は出来ないだろう。
ましてや開発費などの割り振りは彼が行っている。
だけど彼女はそんなことで愛想を振りまく人ではないはずだ。
(ミラーくんはかっこいいものなぁ)
鍛えてはいるけれどごつすぎないスマートさ。
綺麗にいつも整えられている金髪。
頭もよく口も上手い。
加えて顔が美形だ。
女性たちが騒ぐのも無理ない。
だけどそんなものはストレンジラブには関係ないって思ってた。
彼女は女性を好んでいたし、彼は絶対タイプじゃない!…と思ってたんだけどなぁ。
ミラーと話すストレンジラブは楽しそうだ。
彼女は美人だ。
きっとミラーのほうもまんざらではないに違いない。
(どうしよう。ミラーくんにじゃどうあっても勝てないよ!)
「ヒューイ、話の途中にすまない。で、なんだったか……」
「いや、うん。もうちょっと練り直してから出直すよ。ちょっと直したい箇所を見つけたんだ」
「そうか?」
ヒューイはしょんぼりとストレンジラブの研究室を後にした。
目の前には先に部屋を出た颯爽と歩くミラーの後姿。
はぁ、とため息をついた。
「おいおい、なんだ?ストレンジラブにフラれたのか?」
横からデリカシーのない声をかけてくるのはボスだ。
「違うよ」
「そうか……ところでカズを見なかったか?」
「ミラーくんなら今までここにいて、さっき向こうに行ったよ」
「ほんとか!ありがとう!」
しゅたっと片手を挙げるとミラーの去った方向にボスは走っていった。
ボスもミラーくんを頼りにしてるんだな。
そうか。ストレンジラブもそういう頼りになるところを気に入っているんだろうか?
だったらなおさら僕に勝ち目はない。



すっかり落ち込んでいた僕は一人で遅めの昼食をとっていた。
そこへやはり同じように落ち込んだ様子のボスが食堂へと入ってきた。
「スネーク、どうしたんだい?ミラーくんには会えなかったの?」
「……いや、会えた」
チラリとコチラを見るとまた視線を落としてしまう。
スネークらしくない。
「ケンカでもしたの?」
「いいや」
「じゃあなんでそんなに落ち込んで……」
「一緒にお昼を食おうと誘ったら忙しいからと断られた」
「……え?……それだけ?」
「ストレンジ博士にサプリメントを貰ったから十分だ、とさ」
「………………ストレンジラブ博士に?」
フォークでポテトをグサグサとまとめてさすと思い切りソレを口に

入れ咀嚼しているボスはなかなか口が開けない。
苦しそうに飲み込むと僕のほうを見た。
「……む、ぐ……あ〜……もしかしてエメリッヒ博士は誤解をしていないか?」
「誤解?」
「その……カズとストレンジ博士について……」
誤解も何も二人が仲がいいのは誰が見ても明らかだ。
何も言えず黙り込んでいるとスネークが僕の肩を思い切り叩いた。
「いったぁ!」
彼は軽く叩いたつもりかもしれないが、鍛えていない僕の体には重量級の衝撃だ。
「おっと、す、すまん。あ〜つまりだな。仲は確かに良さげに見えるが少なくともカズは博士を女性としては見ていないようだぞ?」
「それは……本人がそう言っていたのかい?」
「あ〜まぁ……そんなところだ。それに博士のほうもたぶんカズを男としてはみていないだろうな。たぶん弟とかそんな感じじゃないか?」
「でも……」
「確かに博士からは直接聞いたわけではないからわからん。本当のところはな」
「……ミラーくんは……どう思ってるんだい?聞いたんだろう?」
「あ〜、まぁ奴は女性には大抵いい顔しかしないが、どうも博士に対する態度が他の女性とは違うようだったから俺も気になった」
「うん」
「そこで俺は聞いてみた。『もしかして好きなのか?』と」
「うん、それで?」
「奴は笑って言った。ありえないって。女の子の好みとか似ていてウマもあうから良く話すが男友達と変わらない……そうだ」
「……本当に?」
「……まぁそれだけじゃないな、とは思う。なんというか……甘えを感じる」
「甘え?」
「母親や兄弟にするような……」
確かによく連れ歩いているような女性たちと比べ、どこか対等でしかしふと甘えるような言動や仕草をしているのを見たことがある。
それを見て僕はもしやストレンジラブが本命なんじゃ、と疑ったのだ。
「それは彼女が好きだからじゃなくて?」
「ない。……あぁ親友や家族のような意味でなら確かに好きなんだろうな。でなけりゃカズがあんなにあからさまに他人には甘えない」
「そうなのかい?」
「あぁ、超ド級の意地っ張りの見栄張りだからな」
「ふぅん、スネークはミラーくんのこと。よく知っているんだねぇ」
「そうでもない。未だに分からないことが多いさ」
僕はストレンジラブのことをよく知らない。
もっと彼女を理解していればこんなことで悩むこともないんだろうか?
「いや、むしろ悩むことが増えるさ」
「そうなのかな」
「そういうもんだろ」
「……もしかして……スネークは今恋をしているのかい?」
「……へ?」
「そんな言い方だった」
「そ、そんなことあるわけ無いだろう!」
そういって手をぶんぶん振って否定しているけれどほんのり頬が赤いのが肯定している。
そうか。スネークだって恋をしているんだ。
「うん、でもやっぱりあんなふうに彼女と話すことが出来たらいいよなぁ。今度ご教授願おうかな」
「ところで博士……」
「うん?」
ふと気付くとスネークは僕がまだ手付かずのおかずをじっと見ていた。
「それ……食わないのか?」
「あ〜……」
つまり食いたいんだな。
実を言うと食欲が無くてなかなか食事が進んでいなかった。
さっきよりは少し浮上できたし、そのお礼にあげてもいいかなと皿をスネークの前に差し出した。
「実は食欲無かったんだ。よかったらどうぞ?」
「おぉそうか。じゃあもらおう!」
スネークはニコニコと僕の残したサーモンのマリネを三口ほどで食べ終えた。
「さってと」
「これから訓練かい?」
「いや、カズの手伝いでもしてこよう。まぁデスクワークの苦手な俺じゃかえって邪魔かもしれんがな」
「うん、がんばって!」
スネークを見送ったあとさっきストレンジラブに見せようと思っていた設計図を思い出した。
どちらにしろコレは彼女に意見を仰ぎたいし、彼女が休憩をとる時間を見計らってまた行ってみよう、と前向きに考えることにした。
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