SS2

□ソリッド、シャワー室にて
1ページ/1ページ

マスターは綺麗好きだ。
訓練においてもそのほかにおいても俺たちと汗をかき泥にまみれることを厭う人ではないが、割と頻繁にシャワーを浴びに行っているのを見かける。
サバイバル訓練などではシャワーを浴びることは出来ないが、訓練が終わり真っ先に向かうのはシャワーだ。
汗臭く泥臭い連中の中で、いつも一人フワリと石鹸の香りを漂わせている。
さらにオフの日などには何か香水をつけているのか甘い香りもする。
なかにはそれを悪しくいう輩もいるが、もちろんそんなのは彼が女性にもてることに対する嫉妬ゆえのものだろう。
女性たちも負けじと荒れがちな肌を手入れし、綺麗好きな彼の目に留まろうといじらしい努力をするさまはかわいいと思う。
むしろそうやって自然に彼の側に近付こうと努力できるのが羨ましい。
普段鬼教官と呼ばれるマスターもそんな女性たちには非常に優しい。
俺はといえば汗みどろで居残り訓練だ。
顔は泥だらけで体は傷だらけだ。
流れてくる汗を拳で拭う。
横をチラリと見る。
マスターは無表情にも見える厳しい顔つきで俺の動きを逐一チェックする。
その口元がフワリと和らいだ。
「よし、合格だ。スネーク」
「……ありがとうございました」
ふぅと息をつく。
訓練をつけてくれといったのは俺だ。
可愛らしい女たちとは違って俺はこうすることでしかマスターと一緒にいられない。
しかしこうも厳しいとさすがの俺もしんどい。
終わるとほっとする。
マスターにもそれがわかったのだろう。苦笑いをされた。
「ひどい顔だぞ?シャワーでも浴びてスッキリしてくるといい」
「はい」
よろよろとその場を後にした。
そういえば今日はかなり暑かった。
その炎天下で訓練に付き合っていたマスターもかなり汗をかいたはずだ。
いつもマスターは俺たちとは別のシャワー室を使うか時間をずらして入る。
今日もきっと別のシャワー室を使うのだろう、と思っていた。
一人泥と汗を流した。
傷に少し染みるがこれくらいはたいしたことはない。
キィ、カシャン。ぺた、ぺた、ぺた。
裸足の足音が聞こえ、誰かがシャワー室に入ってきたのがわかった。
誰か他にも居残り訓練でも行っていたものがいたのだろうか。
誰だろう?と振り返ってみるが当然衝立とカーテンのせいで足先しか見えない。
とはいえいつものメンバーについては足の形とか肌の色とかで大体は把握している。
(誰だ?見慣れないな)
「スネーク?」
「……え?ま、マスター!?」
「怪我をしていたようだが大丈夫か?」
「も、問題ありません!」
いきなりマスターに声をかけられて声が思わず裏返る。
「そうか。いつもより苦しそうな顔をしていたから怪我がひどいのかと思ったが……無理はするなよ?少しでも問題があるようなら医務室に行っておけ。体調管理も仕事のウチだ」
「イエス、マスター!」
見えてはいないだろうが、彼のいるだろう方向に向かって敬礼する。
マスターは隣のブースに入ったのかすぐ側からシャワーのコックをひねる音が聞こえ、しばらくすると嗅ぎなれた石鹸の匂いが鼻をくすぐる。
思い切りそれを吸い込むと柔らかい匂いが体の心から癒してくれるような気がする。
ごしごしと体を擦る音。
この匂いに包まれて全裸のマスターが衝立越しにいる。
その光景を思い描いた途端、うっかり俺の下腹部が元気になった。
やばい。このままではシャワーブースから出れない。
いや、今のうちにさっさと出ればいいのか。
しかしもったいない気もする。
「3. 1415926535……」
円周率を数えて治めようと試みる。
「スネーク?なんで円周率なんて呟いてるんだ?」
「……いえ、ふと言えるかなと思って……」
「ふ〜ん?」
どうやら口に出していたらしい。
マスターに不審がられた。
マスターはさすがに綺麗好きなだけあり念入りに洗うようだ。
簡単に髪や体を洗いさっさと出る野郎共とは違った。
ついつい音に聞き入る。
せっかく必死に治めようとした下半身がこのままではまた元気になってしまう。
これではいかん、とバスタオルで体を拭くと「お先に失礼します」と声をかけてロッカールームへと移動した。
去り際にカーテン越しに見えたシルエットとチラリと見えた足はしっかり目に焼きつけた。
引き締まった白い足。
気持ち良さそうに揺れていたシルエット。
リラックスしているからなのか、いつもより柔らかい無防備な口調や時折もれる気持ち良さそうな吐息が可愛らしかった。
思わずその場でデレンとしそうになったが、気と顔を引き締めなおしロッカールームも早々にでた。
シャワーから上がったばかりのマスターを拝んでみたい気持ちはあったが目の前でデレンとなるわけにはいかない。
妄想にとどめる。





今夜のオカズは決まったな。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ