SS2

□ばにばに
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コンコン。
ノックの音にはっとして返事をする。
「あぁ、なんだ?」
『着替え、済んだか?』
着替え?
……あぁ、そういえばさっき衣装とやらを持ってきた奴らに無理矢理着替えさせられたっけ。
「あぁ、済んでる」
鏡を見てゲンナリする。
なんだって俺はこんな仮装のような格好をしているんだっけ?
どこかのカフェのウェイターのような衣装自体はまぁそんなに変でもない。
似合わないだけで。
しかし頭。
頭のこのウサギ耳は一体なんなんだ?
「お、なかなかいいじゃないかぁ〜」
そういいながら入ってくるカズに振り返ってさらに驚愕に目を丸くする。
「なっ!?なんだお前その格好!?」
「え?これ?」
ウサギ耳は……まぁ俺と同じだ。色違いなだけで。
しかしその衣装……。
いわゆるバーやなんかで女性が着ているような……いわゆるバニーの衣装だ。
白いきわどい水着みたいな体にぴったりした衣装には耳と同じ黒いしっぽ。
首と袖に襟と袖らしきものをつけてはいるが肩や腕はむき出しだ。
足は濃い目の色のストッキングをはいている。
「どぉ?かわい?」
おどけたように首をかしげてみせる。
「………………」
「……ちょっとボス、そこは笑うなりキモチワルイなり言ってくれないと!」
カズはそういうがこれが笑えるか!?
キモチワルイだって?
かろうじて隠してはいるが乳首は見えそうだし。
つるんとした肩がすこしなで肩のせいといつもみたいに背筋をのばさずにはずかしそうにすぼませているせいか華奢に見える。
くびれた腰から丸く形のいい尻へのラインは色っぽいしストッキングに包まれた太ももはむっちりと美味しそうだ。
つまり妙に似合っている。
思わず生唾を飲み込み目のやり場に困りつつとりあえず話題を変える。
「あ〜…で、カズ?俺たちはなんでこんな格好をしているんだ?」
「なんでって……パーティーでクライアントさんのボディーガードだろ?」
「ボディーガードがなんでこんな格好しなきゃならないんだ!?」
「いかにもな軍服やスーツだと、お客さんが緊張して楽しめないからって……」
「だからって、これはないだろう」
「だってクライアントがこれ着ろっていうんだから…仕方ないじゃないか」
クライアント、グッジョブ!
……じゃなくて。
カズになんてものを着させやがる。
「お前……仕事選べ……」
「だって、割が良かったんだよ。今は少しでも金が欲しいだろ。パーティーでウェイターの真似しながらボディガードなんて楽チンじゃないか」
「はぁ……」
確かにまだこの立ち上げたばかりの軍隊(といってもまだ小隊ほどの人数)には金が入用だった。それにしたって……。
「悪かったよ。ボスにまでそんな格好させる気はなかったんだけど……人数足りなくなっちゃってさ」
「……ま、もう今さらだ。他の奴らは?」
「もう着替えて配置に着いてるよ。ボスはウェイターの真似なんかしなくてもいいから適当に巡回してて?」
「……あぁ、分かった。で、お前は?」
「俺?俺はクライアントの側にいるよ。まぁたまに確認で巡回に回るからそのときだけボスが交代してくれれば……」
「了解した」
とにかく仕事である以上はこなさなくてはならない。
とりあえずどこに誰が配置されているのかを確認すると、死角になるだろう部分を把握してまわることにした。
そのときに部下に確認もしたが…やはり皆俺と同じ格好かカズと同じ格好を着させられていたが……なにげに顔がいいメンバーがバニーを着させられていたのは気のせいだろうか。
随分いい趣味をしたクライアントじゃないか、と段々腹がたってきた。
ここを狙ってるとか言うマフィアもさっさとくればいいものを、退屈でしょうがない。
これなら当分大丈夫だろうとパーティー会場に足を向けた。
カズとも交代してやらないといけないだろう。
さてカズはどこだろうと探すとちょうどクライアントにでも頼まれたのかカクテルを載せたプレートを運んでいた。
しかし踵の高い靴に慣れないせいか足元がフラフラしている。
それに近付いていった男が気づかうようにカズの背を支える。
それにカズが愛想笑いを浮かべるとすぐに去っていったが……今去り際に尻を触らなかったか!?
よく見れば客の何人かがカズの尻を見ている気がする。
見るな!触るな!
さらに極めつけはクライアントだ。
わざと足をひっかけ倒れそうになったカズを膝の上に乗せたかと思ったら腰から尻を撫でまわしている。
あの野郎!と思わず駆けていって殴り飛ばしてやろうと思ったがとりあえず適当にその辺のドリンクをプレートに乗せてもっていくフリをする。
さすがに困り果てたらしいカズが俺と目が会った。
その目が「助けて」と訴えている。
ダン!とわざと大きい音をたてて近くのテーブルに持ってきたドリンクを置く。
中身が大分こぼれたが俺の知ったことではない。
「配置交代の時間だ、カズ」
「あ、あぁ了解ボス」
ほっとしたような顔で慌ててカズが俺のほうに逃げてくる。
そして耳元で小さく「ありがと」と言った。
打ち合わせをするふりをして、もうここへは戻ってくるなと言おうとしたところで無線機がなった。
「俺だ、どうした?」
『暴れられますよ!』
嬉しそうな部下の声が届く。
つまりマフィアとやらが乗り込んできたのだろう。
俺はやっとこの窮屈で不愉快なパーティーを終わらせられる、とニヤリと笑った。
カズを見ると聞いていたのだろう。
いきいきとした顔に戻り辺りを警戒している。
「ミスター、パーティーは終わりだ。客は非難させてくれ」
「な、なに?」
クライアントが慌てて立つよりも早く窓ガラスが割られる。
カズがクライアントを伏せさせると同時に脇にあった花瓶が割れた。
廊下からも幾人かが乗り込んできたが、すぐに俺がCQCで倒した。
背後は、と見ると脱いだハイヒールを敵に投げつける姿が見えた。
なんとも頼もしいバニーだ。
さらに数人を同じくCQCで投げ飛ばしている。
可愛らしいバニーが楽しそうに敵を投げ飛ばす光景と言うのは実にシュールだ。
『外の連中は全て捕らえました』
部下からの無線。
中に進入してきた敵も大方俺とカズで倒した。
辺りを見ればすでに客もクライアントも逃げており、気付けば気絶した連中と俺とカズの二人だけだった。
「あ〜、スッキリした」
ぽいっと頭のウサギ耳を投げやりカズが額の汗をぬぐう。
俺のウサギ耳もとっくにどこかに吹き飛んでいる。
「実はさ、途中からマフィア云々の話は狂言だったんじゃないかって思ってたんだけど……」
俺もそう感じていた。
これでなんにもなかったら最後にぶん殴って帰ってやろうかと思っていた。
カズや俺の部下たちをウェイターがわりにこき使い、しかも辱めやがって。
まぁ忌々しいパーティーはこいつらのおかげでぶっつぶれてくれた。
ついでとばかりに調度品も壊しまくってやった。
「カズ、怪我は?」
「ないよ。でもスットキング破れた」
見れば確かにストッキングの間から白い素肌がのぞいている。
自分が破いたのならなかなかそそる格好だが、今はなおさら忌々しい。
「さっさと脱いじまえ、そんなもん」
「やだ、ボスのえっち」
わざとらしくカズが体をくねらせる。
大の男がやれば気持ち悪いようなそんな仕草もカズがやると別の意味でまた気持ち悪い。
「やめろ、バカ」
笑いながら、ホラ行くぞと手を引っ張るとちぇ、と拗ねたような顔でカズがついてくる。
「あ、クライアントのおっさん……」
「金の話なら戻ってからでも出来るだろ」
「それもそうか」
カズのことをベタベタと触るような輩には当然もう会わせたくもない。
直接誰かを寄越せというならウチの中で一番ゴツイのを送ってやろう。
「ところでそれ一人で脱げるのか?なんなら俺が手伝いを……」
「アンタも十分スケベなおっさんだ!」
背中から中に指を差し込んだら思い切り引っ叩かれた。




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