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□嵐の前
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外は嵐が近づいている。
こんな洋上のプラントではどんな猛者も吹き飛ばされて海の藻屑となるのは分かりきっているので当然外に出るものなどいない。
あらかじめ天候はレーダーでチェックしてあり各施設の保護は万全だ。
万が一電源が落ちた場合の予備バッテリーも準備させてある。

「昼間なのに真っ暗だな」
少し浮かれた言葉でスネークが窓から空を見ている。
まったくいい大人が何が楽しいんだろう、とカズは思わずにいられない。
「仕事してくれ」
「デスクワークは飽きるんだよ」
「俺だって好きでやってるんじゃない」
「そうなのか?」
「………………」
カズはじっとスネークを見た。
サングラス越しでも睨んでいるのが分かったのかスネークはしぶしぶと机に戻った。
「簡単な報告書が数枚だろ。さっさとあげてくれ」
「……なんでカズは室内でもサングラスしてるんだ」
「うるさいなぁ、俺の勝手だろ。さっさと仕事する!」
「……何怒ってるんだ?」
「怒ってない」
「怒ってるじゃないか」
「怒ってない!」
「でもイライラしてるだろ……あぁ!もしかして怖い?」
「………………」
「……あれ?図星だったか」
「こ、怖くない」
「本当か?」
「俺がそれごとき、怖がるわけないだろ?そんな子供じゃ……」
ピカッドーン。フッ。
雷が落ちると同時に突然明かりが消えた。
「ぎゃ〜っ!」
ガタガタガタっと音がしたと思ったら悲鳴をあげてカズがパイプ椅子にしがみついていた。
「カズ。おい、カズ!」
「はっ!?」
「おい、大丈夫か?」
「……ふ、不意打ちで暗くなったからビックリしただけだ!」
「あぁそう」
すっかり真っ暗だが夜目になれているスネークは目が慣れてくるのも早い。
しばらくするとうっすらとだが見えてくる。
「予備バッテリーつけてくるか」
「えっ」
「……どうした?」
「行っちゃうのか?」
「行かないとどうしようもないだろう」
「そうか……そ、そうだな」
しかし声が震えている。もしかして一人になるのが怖いのか、とスネークは察した。
「……ふむ、予備バッテリーはどこだったかな」
「い、一階だろ」
「そうか、じゃあここからだと三階も下に降りなきゃいかんな」
「あ、あぁ」
「階下にも兵士はいたな。そいつらにまかせるか」
「…………」
「だから安心しろ。いかないから」
「……なんで……」
「怖いんだろ?」
「だから、怖くないって」
「じゃあこっち来い。いつまでもへたりこんでみっともないぞ」
「う……」
観念したのかカズがそろそろとスネークに近づく。
その間もチラチラと外を警戒しているようだ。
また一瞬外が明るくなった。その瞬間にスネークがカズを引き寄せて耳を塞いでやる。
「ホラ、力抜け。平気だから」
「わかってる……」
それでもまだ硬い身体をなだめるように数回背中を撫でてやるとそれにあわせてカズが深呼吸をして自らを落ち着かせていた。
「すまん……その……ちょっとしたトラウマというか……」
「誰にだって苦手なものはある。恥ずかしがる必要はない」
「ん……よく……お袋が夜にいなくなっちまうことがあって……
一人でいたときに嵐になって……それ以来……一人のときに嵐になるのが……嫌なんだ……」
「そうか……俺は吸血鬼が嫌だな……」
「は?き、吸血鬼?」
「あぁ、怖いだろ?」
「う〜ん、俺はそれならお岩さんのほうが怖い……」
「誰だ、お岩さんて……」
「日本の……まぁお化けだ」
「なんだ、それなら吸血鬼と変わらん」
「いやお岩さんは血ぃ吸わないぞ?」
「怖いオバケなんだから変わらん」
「……う〜ん」
それから数分後、明かりは戻った。
「お、ついた」
それでもまだカズはスネークの背後にぴったりくっついて座ったままだ。
触れる体温があるだけで安心するのだろう。
「カズ、階下に行って暇つぶしにカードゲーム大会でも開くか」
「え、でも仕事……」
「どうせ捗ってなかったろ?外気にして集中できてなかったじゃないか」
「……バレてたのか……」
「よし、行くか! 集まれる奴招集かけよう」
カズの手をとってスネークが立ち上がる。
「あ、……手……」
「ん?このほうが安心するだろ?」
「いや……でも……」
「こうしよう、軽いスニーキング訓練だ。誰にも見つからず階下の待機室までこのまま行く」
「え〜……」
「ホラ行くぞ」
「…………了解……あと……ありがとう……」
「何、吸血鬼が出たときはお前が助けろよ」
「無理……それ俺も無理だから……」



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