☆弐万打記念

□怖いから(カズ)
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居場所が、欲しい。
ここにいていいと誰かに言って欲しかった。
でもそんなのは全部幻想でしかない。

認められたい。
でも誰かの下につく気は毛頭無かった。
だから噛み付いた。
どうせあんたも俺を利用したいだけだろう?
あんたは俺をどう使いたいの?
何をしたいの?
何をさせたいの?
どうせ俺の中身なんて見ちゃいないくせに。
気が遠くなる。
苦しい。
どうしてそこまでして俺を追いかけてくるのかわからない。
何故逃がしてくれないんだ。
もう俺なんていいじゃないか。
放っておいてくれ。
あんたはそうやって自分に屈さないものを許したくないだけじゃないのか?
屈さないなら死ねと言うのか。
あんたのその傲慢さにヘドが出そうだ。
あんたのために死ぬ気なんてこれっぽっちもない。
ならばとことん噛み付いてやろう。
そうしてあんたに下った。



スネークの強さは認めざるを得ない。
この男の喉元に食らいつくには生半可では出来ない。
そのためには対等な位置を確保しなければ。
側に、いなければ。
認め、させなければ。
この男に。この男に心酔するものたちに。自分を。
「お前がいて助かるよ」
確かに経営に関してはスネークは素人だ。
まかせろと言ったのは自分だ。
洗いなおしてみればまるでザルだった遣り繰りを仕切りなおし。
隊としての規律を仕切りなおさせ。
徐々に俺に染めさせていく。
スネークが褒めてくれる。
仲間も認めてくれる。
でも違う。
こんなことで優位に立っても嬉しくはない。
「お前の飯は美味いな」
あんたも。仲間も。
なんの疑いもなく俺の作ったものを嬉しそうに食べる。
俺がたとえば何か仕込むようなことは思いつきもしない顔で。
違う。違う。
そんなことで認められても嬉しくないって何度も言ってるじゃないか。
あんたは英雄で。
俺はただのそこらに転がる石ころの一つで。
なのに何故かあんたは俺を拾った。
あんたに認められたと夢を見るのは簡単だ。
だけど、その差は歴然で。
あんたは側にいるけど遠すぎて。
そんなあんたに少しでも近付こうと、俺は俺の石を積み上げる。
そしていつかあんたのその喉笛に噛み付いてやるんだと足掻くんだ。


認めて欲しい。
努力するから。
俺を見て欲しい。
頑張るから。
すこしだけでいいから。
もっと頑張るから。
だから……。こっちを……。



「っ!?」
思わず去ろうとしたスネークの裾を掴んで我に返った。
「おい、カズ?どうした?」
「……あ……す、すまんボス。ちょっと……立ちくらみがしただけだ」
「……あまり顔色が良くないな。医務室で少し寝て来い」
「だ、大丈夫だよ。大げさだなぁ。下向いて考え事してたから。それだけだよ」
実際、咄嗟に動いたせいか目が眩んでいた。
片手で額を押さえつつ、裾を掴んでいた手を離す。
スネークが無言で見下ろしているのが分かる。
その目線が怖い。
心配?同情?
そんなもので見られるくらいなら「甘ったれるな」と蹴り飛ばして欲しい。
俺たちのいる場所は戦場だろ?
それなのに肩にかかる手が振り払えない。
背に添わされた手の暖かさにほっとする。
嫌だ。触らないでくれ。
俺に優しくするな。
甘えを……覚えさせるな。
弱くなるのは嫌だ。
あんな縋るような真似をする自分は嫌だ。
スネークの愛しむような目が怖い。
スネークの暖かい腕が怖い。
お願いだからそんな風に俺を甘やかさないで。
そんなふうに。
そんなふうに認められたかったんじゃないのに。



俺を見て。
俺だけを見て。
その目に俺を映して笑いかけてくれれば。
俺はそれで満足するから。

そんな自分が怖い。

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