☆弐万打記念

□可愛い人
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研究開発班にはいくつかの分野に分かれて班ができており、ここ、ストレンジラブ率いるAI研究班は博士が同性愛者なせいか女性が多い。
しかしよほどタイプだとかではないかぎり博士もそうそうは手を出してこないので職場としては概ね平和だ。
そんな女性の園だからか、それとも他に理由があるのか。
よく副司令であるカズヒラ・ミラーが訪れる。
アネモネはそんなところに遭遇した。
ちょうど博士に頼まれたデータを他の部署から受け取って部屋に戻ってきたところだった。
「やぁ、すまないが博士はいるかな?」
「あ、は、ハイ。いらっしゃると思います。少々お待ちください」
部屋ではアネモネが退室したときと同様にAIを弄っていた。
「ストレンジラブ博士、副司令がいらっしゃってますが?」
「ミラーか?通せ」
「はい」
ミラーを部屋に招くと「ありがとう」とアネモネに笑いかけた。
それを少々うっとりしながら見送った。
「よぉ、博士。順調か?」
「そうさせたいならもっと予算を寄越せ。それから記憶版をもっと回収してくれ」
「そうしたいのは山々だけどさぁ……こっちだって……」
一般兵士には難しいであろう用語が出てきてもミラーは特に問題なく会話する。
副司令という立場上ある程度のことは知っているとしてもそれなりの知識がないとあそこまで博士と会話は出来ないはずだ。
アネモネは自分の仕事をしつつもチラチラとミラーと博士の様子を見ていた。
「アネモネ……」
「…………」
「アネモネ、データは?」
「あっ!ハイ、すいません。あの、こちらです」
「見惚れるのは結構だがアレには下手に近寄るなよ?痛い目見るのはお前だぞ?」
「え?いいい、いえまさか!あ、いや、そのちょっとかっこいいな〜とは思いましたけど……そんなお近づきになりたいとか思ってませんよ!」
「どうだか……」




「おいコラ、スケベグラサン」
「はぁ!?なんなの突然。なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの?」
ストレンジラブは副司令室に書類を届けにきていたが、去り際もう一度振り返った。
「ボスがこの間お前のことをそう言っていたそうじゃないか。なかなかどうしていいネーミングだ」
「ぐ、ソレをどこから……」
「あれだけ派手に喧嘩すれば目や耳にした輩は大勢いるだろうよ。それより……」
「はい、なぁにぃ?」
ミラーは不貞腐れたように頬杖をついて明らかに本気で聞く気が無い。
「こらちゃんと聞け!」
ミラーのほっぺをつねる。
「いはい!」
「お前がちゃんと聞かないからだ」
「もう……で、何?」
頬をさすりながらミラーがキチンと座りなおしたのを見て改めて話し出す。
「うちの部署のメンバーだが何人かお前にお熱なのがいるようだ。くれぐれも手は出してくれるなよ?」
「……ふん?あんたのハーレムに手を出すなってこと?」
「まぁそれもあるが」
「……否定しないんだ」
「仕事に支障をきたすのは困る」
「まぁそりゃごもっとも。……まぁそれに関してはこの間の一件でボスの目が厳しいからな。出しようがないさ」
「なんだ、やはりこの間のは痴話喧嘩だったのか」
「ち、痴話喧嘩って……そ、そんなんじゃないし」
「今更私に隠してもしょうがないだろ?」
「それはそうだけど……この間のは違うし……」
ミラーとボスにはそうなった過程はしらないが肉体関係があるらしい。
上手く隠しているようだが私にはまるわかりだった。
確かに性格はともかくミラーは見目がいい。スタイルもまぁまぁだ。
女だけでなく男にももてるようだ。
ボスはみるからに硬派だが意外とむっつりだ。
また当然頼りがいのある性格は男からも惚れられるタイプなのだろう。
別にそんな二人がくっついたとしても私からすればなんの不思議も無い。
ただ司令と副司令という立場上あからさまにするわけにもいかないのだろう。
難儀なことだ。
「ふむ、では取り越し苦労だったかな?悪かった」
「いや、忠告ありがたく聞いとくよ。これ以上ボスに殴られたらたまんないしね」
「……お前も懲りないな」
「博士だって似たようなもんだろ?」
「否定はしない」
お互いに見合ってニヤリと笑う。
こういうのは悪くない。
「お前が女ならよかったのに……」
「ん?」
「そうしたらタイプなんだがなぁ……」
「おいおい、勘弁してよ」
「おや、私はお前の範疇外か?」
「いや、美人だし。嫌いじゃない。でも博士同性愛者じゃないか」
「お前なら許せる、と言ったら?」
「……博士?忠告しにきたくせに……自分は誘ってるの?」
「そう、見えるか?」
「誘い……乗っちゃうよ?」
サングラス越しに見えるトロンとした目がなかなか色っぽい。
本当に女だったらすぐさま口説くのに。
「構わないが……ドアの外でボスが聞き耳立ててるぞ?」
「うそっ!?」
「……嘘だ」
「ちょ……もうほんと勘弁してよ〜」
「そんなことじゃまた近いうちにボスに殴られるかもな。しかし本気でウチの部署の人間はやめてくれよ」
「わかってるよ!」
拗ねて子供のように唇を尖らせる。
男にしてはぽってりとしていて艶やかなそれに軽くキスを落とす。
予想以上にキョトンとした顔が可愛らしくて思わずケラケラと笑った。
「は、博士!からかうな!」
「それくらいで怒るな。かわいい顔が台無しだぞ?」
「か、かわっ……」
「あ〜、かわいいかわいい」
「かわいくないっ!」
普段は格好つけた副司令も仮面をはがせばただの青年に過ぎない。
こんな顔は他のやつらはめったに見れないんだろうな、と少し優越感に浸った。



「いや、カズはかわいい!」
突然の第三者の声に二人驚いて振り返る。
「ぼ、ボスっ!?」
驚いたミラーの声がひっくり返っている。
「おや、スネーク。……どこから聞いてた?」
「……からかうな、の辺りからか?笑い声が聞こえて気になった」
本当かどうかはわからないが、まぁ私には関係ない。
「ついからかうのがおもしろくてね。ミラーがむきになるから」
「そこがかわいいんだろ?」
「違いない」
「だ、だからかわいくないって!」
チラリとボスが目線で合図する。
さっさといけという事なのだろう。
ミラーは真っ赤な顔で私とボスとを交互に見ている。
「無粋なまねはしたくないからね。戻るよ」
最後にもう一度、とミラーの顎下を指先でくすぐった。
「ひゃあ!」
と可愛らしいミラーの声とボスの睨んでくる目に上機嫌になりながら女の園へと帰ることにした。





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