夜想曲の破片
04/11(Mon) 01:00
傷と証拠とおまじない
「ば、馬鹿者っ、そんなじっくりと見るな…」
肌に手を触れ、そっと撫でながら眺めるレックスにアズリアはバツが悪そうに顔を背けてそう呟く。
「ん?どうして?」
「どうしてって…」
聞き返す言葉に一瞬言葉を詰まらせた後、やや歯切れの悪い感じに答えを返す。
「傷だらけだろう?私の身体は…」
「…それがどうかしたの?」
窓から差し込む月明かりに照らされた身体にはそれらしき物は見えないものの、そっと肌に手のひらをなぞらせると確かに普通と異なる、何らかの傷痕らしき物が感じられる。
「…女らしくないからな。私の身体は。」
物心付いた頃には既に軍人を志し、入隊後はただ上級軍人になる事だけを目指して部隊を率い、任務をこなしてきた日々。
男社会である軍属の中、女性である彼女が”部隊長”として認められる為には男同様、もしくはそれ以上にそれらしく振る舞わなければならない事は想像に難くない。
「ままならん物だな。昔は誇りにさえ思って晒せていたのに、今では後悔こそ無いが進んで見せる気にはならん。」
僅かに苦笑を浮かべ、アズリアは隠すように自身の傷痕へ手を伸ばす。
恐らくどこかの戦場で負傷したのだろう、肩口から胸元へ伸びたその痕は大分薄れてはいるものの、見る人によっては一目で剣か何かで斬られた痕だとわかる程はっきりしていて。
「…君は、綺麗だよ。」
不意に呟いて、彼女を抱き締める。
04/11(Mon) 01:02
「アズリアは欲張りだね。肌も髪も、こんなに綺麗で柔らかなのに、傷痕があるだけで”女らしくない”だなんて。」
「よ、欲張りとはなんだ。これでも私は真剣に気にして…」
―ギュッ―
「君は綺麗で、凄く女の子らしい。俺が保証する。…それじゃ駄目?」
諭すように撫でられる髪。表情こそ見えないが、きっといつものような微笑みを浮かべているのだろう。
「…ありがとう。世辞でも嬉しいぞ。」
「御世辞じゃないよ。何なら…」
―クイッ―
―ポフッ―
「ッ…!?」
「証拠、見せようか?」
不意にベッドに倒され、月明かりに晒されるアズリアの身体。
優しく組み伏された両手は肌を隠す事は出来ず、柔らかな月光に傷痕はうっすらと照らされて。
「〜♪」
「コ、コラ!?私は何も言ってな…ヤッ!?ちょ、貴様どこに口付けて…!!」
肌にも傷痕にも、何度も何度も”証拠”を落とされて。
「わ、わかった!もう世辞じゃないのはわかったから…!!」
「そう?じゃあ…次は気にならなくなる”おまじない”だね♪」
「ッ!?」
見せてた場所も、隠れてた場所も、余す所なく”おまじない”を施されて。
「…もう増えたりはしないからね。」
靄掛かるアズリアの意識に、ふと優しい声が囁かれる。
「これからはずっと…」
俺が守ってあげるから…
END
04/12(Tue) 03:02
おまけ&後書き
「…ねぇアズリア。」
「何だ?」
「さっきの話だけど…ちょっとだけ訂正してもいい?」
「訂正?」
「うん。君の身体にもう痕は増やさないって言ったけど…」
「…それがどうした…ってこら!?貴様突然何を…あっ、ちょ、止めッ…!!」
……………………
「…と、まぁ”傷以外の痕に関しては増えちゃうかも”って事で♪」
「い、一辺逝ってこいこの大馬鹿者ォッ!!」
後書き
元々の元ネタは某錬金術漫画より(”鋼”ではなく”鉄”の方)
証拠やおまじないが何か知りたい?野暮な質問は行けませんよ旦那♪
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