novel T

□ORION
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「すみません!遅くなっちゃって。」









走って来たのか少し息のあがったしおりが

事務所のドアを開けた。









「気にしないでください。


僕も片づけなければならない仕事がありましたから。」








久々に見る領の穏やかな笑みに





しおりはほっとする。










「すみません。

夕立にあっちゃって、お風呂に入ってたら・・・。時間が過ぎてしまっていて。」











夕立
















その言葉に







つい先ほどの事が思い出され













また領の心に













嫉妬の感情がわく。









「それは大変でしたね。



また夜も降るそうですよ。」










なんとか気持ちをこらえ





いつも通りの自分を演じきる。


















それでもしおりは、







窓の外を見つめる


領の横顔に











違和感を抱く。















「あの、




何かあったんですか?






わたしでよければ相談にのります。」















不安げな顔で領を見つめるしおりに



今できる精一杯の笑顔をむける。



























あなたのせいではないけれど











悪いのはあなただ。


















「そんなことはないですよ。




では行きますか。」










「えっ、どこに?」

















しおりの質問に答えずに




部屋を出て、カギを閉める。



























やっぱり何か


いつもと様子が違う。













そんな不安を感じつつ






しおりは領の車に乗り込んだ。




























いつもの穏やかな曲が流れて、







シャンプーの心地よい香りが





車内に溢れる。
























不安定な感情が収まりかけているような気がして













でもまだ胸にくすぶる









怒りにも似た嫉妬のせいで領は何も話せずにいた。



















今までに感じたことのない居心地の悪い空気











その沈黙に耐えられずしおりが口を開く。














「そう言えば今日偶然芹沢さんに




「黙っててください。」

























今までにしおりの聞いたことのない領の声で


ぴしゃりと言われ、驚きの余り息を吸い込む。












すみません
















一体何を領が怒っているのか分からず、




さらに不安になる。















せっかく会えたのに





いつもと違う領に


涙がこみあげるも、

ここで泣く訳にもいかないと必死にこらえた。


























芹沢



















あなたの口から








その名前を聞きたくない。
























今日は







尚更





























あなたは


知らない









無邪気すぎるのも












時に



罪だ。














それは


天使でも許されない。



















遠くの空が



一瞬明るくなる














フロントガラスに


ひとつ

ふたつ

水滴が増える

















それはまるで






じわりじわりと



たまってゆく






嫉妬にも似て
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