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□瞳を閉じて
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昨夜の嵐は湿った空気を絡め取って、



秋の風を呼び込んだ。





空には七色に輝く大きな大きな虹が



ビルに隠された秋晴れの空にかかる。






それはそれは息を飲むほどに美しい架け橋。






足早に駅に向かうサラリーマンも、




全力でペダルを漕ぐ学生も、








思わず足を止めて空を仰ぎ見た。






雲ひとつない青空に



まるで絵に描いたように神秘に輝く七色。






遅刻してもいいや。






誰かが一人呟いた声に、賛同の声をあげずとも、皆心の中で頷いていた。






その一時






空を見上げた誰もが永遠を感じたかもしれない。





















『自分を・・・責めないで・・。


私・・・今・・とっても嬉しい・・んです。


自分を犠牲に出来るほどに、



誰か・・を











あなたを愛せたこと・・・。










成瀬さ・・ん。







あり・・が・・・・と・・・・う・・。』









人は美しすぎるものに恐怖を感じる時がある。





少なくとも僕はそうだった。







七色の光を辿って、ビルの間の空を辿って、


空が見渡せる大橋まで、ふらりふらりと引き寄せられるように歩いていた。






息を忘れる程に、見とれた虹に



神秘と美しさを感じると同時に




例えようもない胸騒ぎと根拠のない恐怖を感じた。














そしてそんな虹の消えかかる空の下、






僕の腕の中で、










儚く、優しくほほ笑んだ彼女は





その美しさに恐れを抱くほど綺麗で








あの日から僕の時間は止まってしまった。














【瞳を閉じて】
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