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□black lily
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それは最も英国が輝いた時代のお話。
その光が強ければ強い程に、
対をなす闇は暗く、深く。
底知れぬ人々の欲望は、栄光に比例するように、
じわりじわりと影を広めて行った。
とある田舎の、さらに村はずれ。
その村にだけひっそりと語り継がれる不思議な話。
かの有名な切り裂きジャックがロンドンの住人を恐怖へ陥れていた同じ時代。
平穏なある村にも不思議な出来事が起こった。
村の外れ、教会の廃墟で、
美しい若い女性の亡骸が荒廃した祭壇に、眠る様に横たわっていた。
安らかな、そして微かに頬笑みを携えた彼女は、かの有名な童話「眠り姫」のようで、
天使ではないか?
神からの使者ではないか?
口ぐちに推測する村人達が不思議に、そして、少し不気味にその時感じた。
マリアの頬笑みで横たわる彼女の身を包む漆黒の修道服。
長く艶やかな漆黒の睫毛で閉ざされた瞳は、どんな色彩で、どんな景色を見たのだろう?
耳元の飾られた漆黒の百合が可憐に香る。
彼女の亡骸を守るかのように生い茂った黒い棘蔓の先に咲き誇る、漆黒の薔薇。
そして陶磁器の様に白く細い指で、大切そうに胸に包む漆黒のチョーカーに、
悪魔の使者ではないかと囁きだすものもいた。
「物好きの貴族共に知られる前に、安らかに眠りにつかせてあげよう。」
果たしてこの廃墟と化した古い教会が、いつからあったのか、長年この土地に住み着いていた老年者達さえ記憶が曖昧になっていた。
廃墟のすぐ傍、小高い丘の上に彼女に似合う黒い棺を誂えて埋葬した。
神の使いだとしても、悪魔の僕だとしても
安らかに眠って欲しい。
しかし、そんな村人達の願いも空しく、程なくして怪しげな貴族の集団が丘の上を穿り返した。
不思議な出来事はまたも起こった。
埋葬した筈の棺はどこにも見当たらず教会を覆っていた黒い薔薇の棘一つ無くなっていた。
オカルトめいた仮面を付けた貴族の集団は肩を落とし街へ戻っていった。
これ以上関わらない方がいい。
村人達はそれ以来一度も丘に近付く事はなかった。
そして夏を迎えたある日。
ある羊飼いが逃げ惑う羊を追いかけ丘へ辿りついた時、
雑草1本と生えなかった荒地は、目を細めんばかりの美しい花畑へと姿を変えていた。
そしてその丘の中心。
彼女の耳元に飾られた黒い百合の花が、風と踊るかの様に揺れていた。
実話なのか童話なのか
または、誰かの戯言なのか。
時を経た今となっては真実を知るものは誰もいない。
輝かしい繁栄の影に隠れたこの伝承の真実を
知って見たいと思いませんか?
【black lily】