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□やっぱりあなただ
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あなたによく似た横顔を見た。
緑道からの木漏れ日を見つめる瞳を縁取るフレームと紐。
シンプルなのにどこかアーティスティックな印象を受ける着こなしが、
少し近寄りがたい空気を放っているのに…
あなたによく似た横顔に胸が高鳴って、
思わず声をかけてしまった。
「あのっ!!」
突然袖を掴まれたのにも関わらず、驚く素振りもない無駄一つない動作でクルリと私を見た。
「僕に何か用ですか?」
片方のイヤホンをとる指は、あなたと変わらない男の人にしては綺麗すぎて長い。
少し早口な言葉を紡いだ唇も、あなたと似てる。
「突然すみません。
あの・・・メガネを外して笑ってみてくれませんか?」
自分でも馬鹿げてると思った。
突然見ず知らずの女に笑えだなんて言われるのだ。
頭のおかしい奴だときっと思われているんだろうな。
「…・すみません。
初対面の方に言われてすぐ笑顔を作れる程、器用ではないので・・・。
失礼します。」
戸惑うでもなく怪訝な顔をするでもなく、振り返った時と同じ無表情のまま淡々としゃべり、再び無駄のない動きでクルリと向きを変えると
そのまま青になった信号を渡って行く。
あなたとのあまりに違う反応に、別人だと分かっていても私は立ち止ってしまって、
その場から動けなかった。
「えーのもとさーん!!!」
信号が赤に変わろうとする時、ベージュのパンツスーツを着た女性が私の横を駆け抜けていく。
何かに躓いたのか、あなたによく似たメガネの彼が彼女を受け止めた。
その反動でメガネが落ちる。
首に掛けられた紐のおかげで、それが地面に落ちることはなかったけれど。
申し訳なさそうに見上げた腕の中の彼女を見つめる視線は、
今しがたこちら側の歩道で彼が見せた無表情からは想像できないくらい穏やかで、愛しさに溢れた優しい眼差しだ。
「ふふ。特別な人なのかな?」
彼らがどんな関係かは知らないけれど、
思わず自分も嬉しくなってしまうような微笑ましい光景。
きっと誰にでも特別な笑顔を向ける人がいるんだろう。
そんな時ふとあなたが浮かんだ。
ちょうどその時だったんですよ?
「しおりさん!」
この場に居るはずのないあなたの声に心臓が跳ね上がった。
「成瀬さん!
どうしてここに・・・・
ってどうしたんですか!?
そのメガネ!!」
凛とした黒いスーツ。
風に遊ばれた少し乱れた前髪。
キラりと光る弁護士の証。
ただ一ついつもと違うのは、先ほど出くわしたあなたによく似た彼と同じメガネ。
「姉のお見舞いの帰りなんです。
昨晩から目の調子悪くコンタクトも使えないので、お休みを頂いたんです。」
僕は平気なんですが・・・と苦笑するあなたの顔を見ると、あなたがどれほど事務所の人に愛されてるか分かる。
「しおりさん?」
黙ったままじっと見つめる私にあなたは不思議そうな顔をする。
「成瀬さん。
・・・・メガネをとって笑ってみてくれませんか?」
あなたによく似た彼と同じ質問を投げかけてみた。
あなたは一瞬驚いて、その表情が少しあどけない少年に見えて、
たまらなく愛しい感情が私の胸に溢れる。
「やはり、メガネは僕には似合いませんでしたか?」
あなたによく似た彼と同じ綺麗な指がフレームに触れて、
困ったように目じりを下げて微笑むあなたに思わず抱きついた。
「そんなことないです。
すっごく似合ってます。」
行き交う人々がチラリと私を見る視線が恥ずかしくて、
飛びこんだあなたの胸に耳を押し付ける。
トクトクと少し早いあなたの鼓動に、あなたによく似た彼も彼女を腕に抱きとめたときこんな鼓動をしてたら・・・・
ふとその時の穏やかな表情が羨ましくて、
少し期待してあなたを見上げた。
「もし時間があれば、これから美味しいケーキでも食べにいきませんか?」
玲子さんがお勧めの店を教えてくれたので。
穏やかな眼差しに胸がキュンとなる。
やっぱり私にはあなただ。
メガネをかけた今日も
合いも変わらず大好きです。
世界に一人しかいないあなたが好き。
end
鍵部屋に毎週毎週悶えております。
ビジュアルはどことなく成瀬なのにここまで違う人物を作り上げられるのかしらと、ホント憎い男です。
青砥さんにしても芹沢さんにしても良いキャラしてますね。
ホント妄想しやすいようにグタっとした関係で終わって欲しいものです径ちゃん純ちゃん。