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□black lily
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世界に広がる女王の庭、
本国の外れにある小さな修道院にその少女はいた。
しかし、修道服で覆われたその身体は少女、と言う時期はすでに過ぎたのかもしれない。
マリアの穏やかな微笑みの中に、まだ無邪気な天使の悪戯な笑みが見え隠れするこのシスターこそ、後に村を騒がす人物だった。
彼女に名前はない。
彼女だけでなく、この修道院にいる年頃のシスターは全て。
「教祖様がお呼びです。」
彼女の隣に膝まづき、祈りを捧げていたシスターがビクリと肩を震わせた。
スラリと背が高く、美しいブロンドの髪を持ったそのシスターは、最も仲が良く、長く修道院にいた人物だった。
生活を共にしても、不思議と自分がどこの出身だとか、どんな家にいただとかの類の話はしなかった。
してはいけない、という事が暗黙の了解だったのかもしれない。
チョーカーを握る手がブルブルと震えだし、青ざめる少女に彼女はそっと声をかけた。
「どうしたの?そんなに怯えて・・・。
喜ばしいことじゃない!
きっと神様のご加護があるわ!」
「そうですよ。
何をそんなに恐れる必要があるのです?
これから、貴女は神にお会いするのです。
怯える事などありません。」
立ちあがる事さえままならなくなった少女を、初老のシスターが諭す。
2人が礼拝堂を去った後、残るシスター達も僅かながら怯えて、震えていた。
そう、
彼女達は品なのだ。
英国が最も輝かしく煌びやかだった時代、
それは同時に暗黒の時代でもあった。
貴族達は毎夜開かれる盛大な社交界の裏、
妖しげな教団で、
密やかな集会を開いていた。
一くくりに纏める事は出来ない。
仮に、悪魔崇拝とでもしよう、貴族達は繁栄の裏に潜む人の欲望の闇に、知らず知らずのうちに引きずり込まれていった。
キリストを蔑み、悪魔を呼びだす邪悪な儀式が至る所で行われていた時代。
全てが商品になりえた。
黒い衣装で身を覆い、妖しげな仮面で素性を隠し、邪淫な集会が邸宅の暗室や教会の地下室で催される。
幼子の血をワイン代わりに宴が始まる。
誘拐や人身売買が盛んに行われる要因の一つであろう生贄を祭壇に捧げ、悪魔を呼び起こす。
悪魔は美しく若い女性を好む、とりわけ神に仕えるシスターならば、より願いを叶えてくれるのでは・・・
エスカレートしていく貴族達の集会は教会さえも腐敗させていった。
「皆・・・そんなに怯えてどうしたの?」
「・・・・っ、アンタは何も知らないのよ!
アンタはココに来る前の記憶がないから、何も知らないのよ!
あたし達は---------。」
怯えているシスター達を心配して彼女が、問いかけるもドアの開く音にその場の空気が凍りついた。
「その子に余計な事を吹きこむのは止めなさい。
あなたが話さずとも、今晩全てが分かりますよ。」
普段見せる穏やかな笑みの筈であるのに、身体を凍りつかせるような響きの声色に、その時は何も知らなかった彼女すら、これから自分達の身に降りかかる悲しい運命に胸騒ぎを感じていた。