novel T

□存在理由
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息苦しさを感じ、領は目覚めた。





カーテンの隙間から朝日が差し込んいて、



小鳥の声が雨があがったことを知らせる。





セットした目覚ましのアラームがちょうどなりだした。







いつもならばすぐにアラームを止めるはずの領であるが今朝は体がまだ動かずにいる。









穏やかな寝起きではない。







静かな寝室の中で、


自分の心臓の音だけが大きく大きく聞こえる。








どんな夢だったかは思い出せない。






暗闇だった事以外。








左手で額の汗をぬぐい、領はおもむろに右手を天井に向けた。








暗闇の中で誰かが必死に


手を差し伸べてくれていた。







誰の手かは分からない。








自分よりも小さいだろうその華奢で





白い手をつかめなかったのは











その手を強く握りしめて



壊してしまうのが怖かったのか、







触れる勇気がなかっただけなのか





分からない。








深いため息を目を閉じた領の脳裏に




しおりの顔が浮かぶ。











手を伸ばせば届く距離にいる彼女の手を









とる勇気はない。









その資格は自分にはない。











領は伸ばした手で視界をふさぐ。








「領・・・。」









外から聞こえる蝉の鳴き声が






2人の少年の思い出を呼び起こさせる。









「どうして僕じゃなかったんだ・・・。」











朝日が領の顔を照らすせいか、





流れ落ちた涙が






いつもに増して冷たく感じた。














今日は真中友雄の命日。






成瀬領の命日。






偶然か運命か、









昨日の大雨がウソのように








あの日と同じような晴天が広がっていた。
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