novel T

□ORION
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「あれ、刑事さん!」










金曜日の午後。












しおりは人ごみの中に見慣れた服を見つけた。









「しおりさん。偶然ですね。」







声の主をきょろきょろ探していた直人だったが、

少し離れた所のしおりを見つけやってくる。









解放感のあるオープンカフェの一番隅。





「お仕事ですか?」



「あぁ、まぁ身周りというか…。


最近は大きい事件もないんで。





まぁ、いいことなんですけどね。」










じっとしていられないのだろう。


自ら身周りに出てしまう直人をしおりはくすりと笑う。







「しおりさんは?」



「はい。お友達とお茶でもしながらおしゃべりしようーって言ってたんですけど、






急用ができたみたいで


今帰っちゃいました。」









少し困ったようにはにかみ、手を付けられていないアイスコーヒーを指さした。








「よかったら、せっかくなんで飲んでいきませんか?


ここのカフェ前払いなのでお金はいりませんし。」








もったいないですから



と席に促されるも、まわりは

しおりと同年代の若い女の子ばかり。









可愛らしい内装の店に少し躊躇しつつも、




直人は席に着いた。









特に不審人物も見当たらず、

ぶらぶら歩くのものどが渇く。








冷えたコーヒーが尚更おいしく直人には感じられた。






「本当はやらなきゃいけない書類とか

たくさんあるんですけどね…。





俺の性にはどうもあわなくて。」







「でも、刑事さんらしいです。」






くすりと笑うしおりに思わず顔が赤くなり、また一口コーヒーを飲む。










「成瀬さんの方は最近忙しそうですね。」








「ほとんど休みもないみたいで、最近はあんまり会えなんです。」








少し寂しそうにミルクティーを見つめるしおりに直人も切なさを覚える。











『今日14時ごろ渋谷女子大生絞殺事件の容疑者・・・・』












交差点のスクリーンが速報を流す。




手錠をかけられ、頭に上着をかぶせられた大学生がパトカーに乗り込む所が映し出される。









そのすぐ後ろに2人の見知った顔が映る。









「今回ばかりは、成瀬先生でも難しいんじゃないかって言われてますね。」










領が今弁護しているのは24歳の大学院生。




交際していた22歳の大学生の彼女の首を絞めて殺害したと本人も認めている。









某有名大学の院生の引き起こした事件を


まるで餌を奪い合うハイエナの様に


マスコミは連日報道する。












彼の一方的なDV。




彼女の浮気。




マスコミが勝手に自分達の推測を


あたかも真実のように報道するなか







彼をよく知る人々は


信じられない・・・と口を揃えて言う。










一体2人に何があったのか、



彼らをよく知る大学の友人達は殺害する理由がわからない。













そんななか黙秘を続けるその男にどの弁護士もお手上げで…







領が任されることになったのだ。
















進展しない事件の真相。






連日インタビューを受ける領の顔にも疲れの色が見える。







テレビに映ることを嫌う領を直人も知っているだけに、


そのストレスに同情する。



















「おぉ〜。直人じゃん!




可愛い娘とこんなとこで何してんの?」











急に背後から首を巻かれ、驚き振り返る。








そこにはいかにもちゃらちゃらとした男。










「・・・宗田。」





また仕事もせずに街をぶらついているのだろう幼馴染。






「なんだお前。



高塚〜とかいう同僚とこの娘に二股かける気?」




なぁ、なぁ





と相変わらず軽いテンションで詰め寄ってくる宗田にしおりも苦笑いになる。











「そんなんじゃない!もういいから、あっちいけよ。」







明らかに自分達に向けられる


他の客の目線に

直人は何とか宗田を追い返そうと努める。













これ以上この場にいさせたら、


今度はしおりに何を言い出すか分かったもんじゃない。








直人を人睨みし、宗田がけだるげに人ごみに消えていった。










「本当は悪い奴じゃないんです…。」




すみません、と直人は頭を下げる。






「分かってます。


あっ、ケーキが来ましたよ!


これもついでにどうぞ。」










席を離れようと思った直人だったが、




タイミング良くケーキが来てしまったためもう少し、留まることにした。
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