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□誓い雪
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白銀に輝く雪を踏みしめて、ちらりとかかとの先を振り返る。


ずっとずっと続いている2つの足跡。


自然とこぼれる笑みに気付かれないように、うつむき加減に視線を前へ戻す。


前には足跡のない、真っ白な雪絨毯。


ムートンブーツを前へ蹴りだして、元気よく踏み出す。


『ナミさん、はしゃいでる?』


冗談言わないで、

ルフィじゃないんだから。

『べつにー?』


思った以上に、機嫌のいい声が出せてよかった。


なかなか“かわいく”できないわたしのことを、わたし自身、嫌いじゃないけど。


ねぇ、こんなに綺麗な景色の中で、あなたと歩ける時くらい。


かわいい彼女でいてあげた方が、いい女だと思うのよ。


甘く見られるのはいや。

一筋縄ではいかないくらいの女でなくちゃいや。



でも、いい女ではいたいのよ。


『ナミさん見て、空。すげぇきれい。』



夕暮れ時に差し掛かる、寒い寒い冬の空。


ブルーとオレンジのグラデーション。


あなたとわたしの色。


ほら、こんな恥ずかしい程ロマンチックなことも考えられるのよ。


『オールブルーは、もっと綺麗なのかしら。』



空を見上げながら言ってみると、サンジくんがちらりとこちらを見た。


横目でそれを確認して、空を見続ける。


『…うん、きっと。』


その返事に満足してわたしは微笑む。


『ずっと昔からの夢に、ナミさんが導いてくれると思うと、ゾクゾクする。』


今度はわたしが、隣をちらりと見る番。


サンジくんの顔は、夕暮れの空の光と影を映して、



その美しさに息を飲む。



元々端正な顔立ちをしているこの男は、夢の話をする時、最も輝きを放つ。



ちら見のつもりが、いつの間にか見入っていたわたしに気付いて、彼もこちらを見て微笑む。


『ん?どうしたの?』


『…なんでも』


あ、またかわいくない顔しそうになる。


今だけは、かわいくいたいのに。



なんて言おうか考えても、思いつかなかったから、隣の彼に腕をからめた。



『…寒い』


だから、そうじゃなくて、

くっつきたいって言えばいいのに。

言えたらきっと、かわいいのに。


ほら、すぐにぶすっとした顔になりやすい自分はいやだ。






『ナミさん…かわいい』



頭の上からふいに聞こえた声。


顔を見たいけど、見れない。

見たらわたしの顔も見られる。

今の顔は見せたくない。


精一杯のリアクション代わりに、絡めた腕にひっついて、彼の腕に頬を埋めた。


『…ナミさん、やばいよおれ、萌え死ぬ』


『何言ってんの…』


ふわりと両手で顔を包まれる。

ずっとポケットの中にあった彼の手は温かい。

『何、そのかわいさ』


ゆっくりと、口づけられる。




長めの口づけのあと、柔らかく、小さく2度、キスをして、それからふわりと、抱きしめられた。



少しずつ、力が込められて、彼の体温に密着する。


肩口のコートから香る彼の香りに、安心して目を閉じる。


そのまま自然と彼の腰周りに腕を回すと、彼は抱きしめたまま、頭をなでてくれた。



ずっと、そばにいてとか

そうゆうありきたりな言葉は、軽々しく感じて、言いたくない。


でも、時々不安で、言いたくなる。


いつ死んでもおかしくないわたし達は、今、この時間を噛みしめて生きていこうと必死。






ゆっくり、体が離れる。


わたしの手は、彼のコートの裾をにぎったまま。



『帰ろうか』


見上げると、にっこり微笑むサンジくんと目が合う。

背中に手を添えられて、わたし達は、わたし達の船へと歩きだす。



『ナミさん、さっき、見とれてたでしょ』


『見とれてない』


『え?何を〜?』


からかうように笑いを含む彼の声。


『おれは空のこと言ったんだけどな〜』


彼の脇腹を軽く叩くと、ごめんごめん、とまた笑って。


それから、今晩何がいい?なんて幸せな会話をして、雪を踏みしめる確かな感触があって、

死と隣合わせなことなんて忘れてしまいそうになるから



『サンジくん、』


『ん?』


『好きよ』



せめて毎日一度はかわいくなろうと決めた冬島の日。




fin.

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