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□恋人。
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『よし』
箱に残っていた最後のタバコ一本を吸い終えて、俺は手摺りに預けていた体を起こす。
『そろそろ姫を奪還しに行くかな』
いまだにマリモと酒を呑みながら、何やら話し込んでいる彼女を眺める。
『そうね。じゃあご一緒しようかしら。』
月明かりの下、彼女をエスコートしながら階段を降りる。
『おいマリモ、いい加減ナミさん返しやがれ。それと、ロビンちゃんほったらかすたぁいい度胸じゃねぇか』
悪態をつきながら近づくと、先に振り向いたのはナミさんだった。
トロンとした目に若干赤くなった頬。
あぁたまんねぇ。
無意識にこうだから質が悪い、この人は。
こんな顔をゾロに見せていたかと思うと、大人気ないとは思いながらもイラついてくる。
『ナミさん、風邪ひくよ。中入ろう。』
『え〜〜〜大丈夫よ。まだ足りないー』
ろれつが若干回っていない、色気3割増しの彼女の腕を軽く握る。
『だめ。中で呑んでいいから、』
『…わかった、サンジくん、焼きもち妬いてんでしょ〜』
クス、と後ろでロビンちゃんの笑う声が聞こえた。
『…はいはい、妬いてるよー、だからおれんとこ戻ってきてナミさん〜』
けっ、といらない相づちを入れるゾロを睨む。
『サンジくん、手…』
ふいに聞こえた、ナミさんのか細い声におれは少し慌てて向き直った。
『あ、ごめん、痛かった?』
掴んでいた手を緩めようとすると下を向いたまま、首を振る彼女。
『手、つなぐ…』
そのままぽそっ、とつぶやいた。
『ちっ、見てらんねぇな。行くぞ』
『ふふ』
そうゆうてめぇも『行くぞ』とか彼氏風吹かせて見せつけてんじゃねぇぞクソ野郎、とか頭の中では思ったが、今はそれどころじゃない。
ナミさんが甘えている。
こりゃ相当回ってんな…。
『ナミさん』
『んー?』
彼女の耳に顔を近付ける。
『覚悟、してね』
何が?と首をかしげる彼女に笑顔を向けて、しっかりと手を握った。
ちらりと顔を盗み見ると、嬉しそうにはにかむ彼女の表情。
シラフでは見られないその表情を独り占めするべく、俺は誰もいない彼女の部屋へとその手をひいた。
fin.