novel

□好きと伝える5秒前
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もう1週間も電話が無い。

毎日携帯を身肌離さずに持っている。

あの人と出会うまで、携帯なんか興味無かった。
遠距離恋愛になるから、親に頼みこんで買ってもらった。

まだ使い方がよくわからない黒色のそれは、何か音を発するわけでもなく。
シン、とすましていた。

自分からかける事は出来ない。
かけ方がわからないわけではない。

もし、出てくれなかった時、自分がどんな思いをするか。

怖かった。



寝て、目覚めても。
メールの一つも入っていない。

不安になる。

たかが1週間だ。会えない日数に比べれば、なんてことない。

だが…


繋がっていないと言う事実もまた、日吉に重くのしかかる。


日吉は黙って黒いそれをポケットに押しこんだ。



****



「千歳ぇ。何しとんのや。そないな格好して。」


大阪 四天宝寺中部室。

いつも騒がしい部室であったが、今日は少し違っていた。

「あぁ、謙也か。いや…ちょっとなくしものしたけん、探しとっとよ。」

その大きな体をクの字に折り曲げて、だらしない声で言った。
ロッカーの下をまじまじと見てから、体を起こした。


「ここにもなかねぇ…」
「一体何をさがしとるんや?」

探し物をしてる人を見れば聞きたくなる質問を謙也は投げかけた。

「携帯ったい。ほら、買ったばっかの黒かヤツ。」

謙也は少し考えてからうなずいた。

「あぁ、…って何で携帯なんかなくすねんアホ。」

呆れたように頭を殴れないからボディにツッコミを入れる。

「あれがないと困るたい。でも、全く何処へやったかなんて…」

うーん、と頭を抱える千歳に謙也はまた呆れた。


「ま、なんとかせぇっちゅう話や。俺は練習行くで。千歳もさぼんなや。」

そう言って、謙也は出て行った。

また独りになった千歳は、本当にどうしていいのかわからないようで、その場に座りこんでいた。



「…日吉…。」

蚊のなくような声で呟く愛おしい人の名前。
声を聞きたい。

繋がっていたい。


「ほんと…俺は馬鹿たい…」

そう言って千歳もまた部室を出た。

****


そう言えば、初めて出会ってからこんなにも連絡を取らなかった事があっただろうか。
そう日吉は考えた。

自分はまだ子供だから。
嫉妬したり淋しくなったりは当たり前だと。
そう考えていた。

しかし、今の気持ちはその域を越えてしまっていた。
何もない、そう言うのが正しかった。

涙は流れない。

ホントに何にもないから。

白い、白い。

「なんにも、ないな…。」

「え?」

隣にいるのは鳳。
いつも口うるさい奴だったが、今日の俺の様子を見る限り騒ぐのはまずいと感じたのだろう。
珍しく静かだった。

「どうしたのさ日吉。いつにも増して元気ないよ?」

「黙れ。今俺は何もないんだ。」

不思議発言に鳳はさらに?マークを浮かべる。
俺は無視して前を歩いて行った。


一体、どうすいればいいんだ。

黙ったままの携帯を恨めしそうににらみながら、溜め息をついた。



その異変に気づいてる奴もいた。
氷帝学園3年、忍足侑士だ。

普段変態扱いされてる彼だが、頼れる先輩に変わりは無いのだ。

「…。なんや日吉、変やんなぁ。」

そのキレ長な目は、日吉の浮かない姿を映していた。

忍足は、携帯を取り出して、通話ボタンを押した。


「もしもし。謙也か?」

電話に出たのは忍足謙也だった。


「あぁ…そろそろ電話かけて来るとおもっとったわ。」

「で、謙也ん所はどうなん?」

「あんな、言いにくいねんけど…」

「まさか日吉を捨ててるとか?」

「ちゃうねん。あいつ…携帯なくしたらしいんや…」

「…はぁ?」

「とりあえずそう言うこっちゃ。あ、白石が来た。ほなな。」


ぶつ、と言って通話が途切れた。

侑士は大きなため息をついた。
まさか、電話がないだけであんなに空っぽになってるなんて、と軽く笑う。

「日吉もまだまだ子供やんなぁ…」



そういって歩いていく後ろ姿は、何かを企んでいるようにも見えた。
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