オリジナル+短編

□寒いのは季節だけでいいから
1ページ/1ページ


「あやかー!」

廊下を歩いていると、後ろから抱きつかれた。
少し前につんのめるけど、転ぶほどではない。

「どうしたの?」

くっついてきた友だちに問いかけた。
彼女はふにゃ、って効果音が付きそうな顔で、私を見上げる。

「長門君と喧嘩しちゃった」

目に涙をにじませている。
私の服を掴んでいる手が少し震えている。

長門君……つまりは彼氏と喧嘩したってことか。
その愚痴を聞いてくれってわけね。


そんなデリケートな話題、教室前の廊下はまずいだろうな。
そう思って、空き教室に移動する。
その教室は校舎の一番上にあるから、ほとんどの人は使わない。
だから話す場所にはもってこい。


一息ついて、詳しい話を聞いてみる。

どうやら、長門君とおそろいで買ったストラップを、彼が無くしたことが発端みたい。

「また新しいのを買えば良いじゃない。仲直りのきっかけにもなるよ」

頭を撫でながら、助言してみる。

そうしたら、彼女はこく、と頷いてくれた。
何買おうかな、って楽しそうな笑顔を見せてくれる。

立ち直れたようで良かった。もう大丈夫そう。


「話聞いてくれてありがとね」

「ううん。気にしないで」


彼女はじゃあね、と手を振ると、廊下をパタパタと走って行った。

私はその後ろ姿を笑顔で見送ってから、壁に背中を預けて一息ついた。




「恋愛、か」


羨ましい。

私も、誰かを好きになってみたい。


その人の言葉に一喜一憂して。
デートに何着ていこうとか。
誕生日に何を贈ろうとか。


恋愛してる子たちを見ると、とても楽しそうなんだもの。
泣きながら相談に来る子もいるけど、普段は幸せそうに笑っているし。


そんな子たちを見てると、まるで心にぽっかり穴が開いたみたいな……


ぎゅ、と自分の体を抱く。

触れたセーターが冷たかった。





寒いのは季節だけでいいから


早く春よ、来い





end.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ