スパイラル+短編

□春の陽だまり
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さて、俺はこの状況をどうするべきなのだろうか。
俺、アイズ・ラザフォードは悩んでいた。

俺と歩は背中合わせに座り、俺は楽譜を、歩は雑誌を読んでいた。

その筈だった。

しかし、今、その背中から歩の規則正しい寝息が聞こえるのだ。

おそらく、最近ブレードチルドレン説得のために動き回っていたから、その疲れが出たのだろう。
先が短い体なのに、無茶をするからだ。

そう思い当たり、胸に痛みが走る。

そう、彼は長くない。
今に、俺の前から居なくなってしまう。



深い思考の闇に引きずられかけたとき、




――……とくん



背中から、温もりを感じた。

じんわりと広がる、暖かみ




今、歩が生きているという、証



「アユム……」




此処に居る

彼は、今、此処に





先が短くても、壊れそうな体でも、

確かに今、此処に居るのだ





「ん……あ、悪い、ラザフォード」



眠りから覚め、体を預けていたことを謝ってくる。
背中を離そうとする歩の手を、そっと握り締めた。

「いや……もう少し、このままで」

顔も見ずに言ったから、歩がどんな顔をしているかわからない。
自分の顔は、どうだろうか。

泣きそうだろうか、微笑んでいるだろうか

二つの感情が混じって、わけがわからなくなっている。


「……あぁ」

そう言って、また背中に重みをくれる。
歩の簡潔な答えには、優しさしか含まれていなくて。
その声になんだか、頬が緩んだ気がした。




季節は春。

雪が溶け、
草木が芽吹き、
暖かな日差しが差し込む



始まりの季節



end.
 

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