■蒼夏の螺旋 3

□前倒しの かぶりつき
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切らないまんまで
食べきることというのを
“丸かぶり”といわれている、
節分に食べる太巻きのお寿司。
大元は関西地方の海苔問屋が
大きに喧伝したものがじわじわ広がり、
福豆だけじゃあ物足らぬとした
コンビニ各社が、
二月頭の節分フェアとして
競うように全国へ広めたとされる、
節分に付き物な縁起もの。
今やデパート出店しているような有名店や、
はたまた割烹料亭風の高級な寿司店でも、
それとなく用意しておいでなほどの
伝播っぷりと来て、
クリスマスケーキや
聖バレンタインデーのチョコに次ぐ、
販促由来の風物詩として
定着したも同然な代物だけれども。

 関東では“海苔巻き”って
 いうんですってね。
 関西じゃあ、
 広く“巻き寿司”って呼んでるけどなぁ。
 おにぎりとおむすび程度の
 違いなのかなぁ?

 「俺はどっちも大好きだっ!」

 「判ったから、
  せめて皿に出してから食え。」

さっそくにも一番上のを手にとって、
セロファンで丁寧に巻いてあるのを
解くのももどかしく
端から齧ろうとする
ワイルドな奥方なのへ。
そちらさんは、
戒律厳しい
武道の嗜みがあってのゆえんか、
豪放に見えても
実は実はお行儀にはうるさくて。
最低限の行儀は守れと
言い置いたそのまま、
ふんぐぐぐと
抵抗する腕を掴み止めると、
腕相撲よろしく、
自分の側へと引いて引いて。
そこへ用意してあった皿に
一旦タッチさせ、

 「よし、いいぞ。」
 「おっし。」

了解を出してパッと手を放せば、
待ってましたと食いつくあたり。
そんな一連の呼吸こそ
な、なんか、
わんこの躾けっぽいんですが。(笑)
そんな勢いのいい食べっぷりながら、
そこはさすがに企画部係長殿の奥方で。
豪快な食べっぷりをしつつも、
最初の1本目へうんうんと頷くと、

 「ふあ、
  同じ海鮮巻きっつっても、
  微妙に違うのな。」

マグロとエビとアナゴを
一緒に巻くなんて、
こないだ
ちょっとはしゃぎすぎてないかって
言ったのに、
こっちのは その上に
サーモンまで入ってるしよと。
がぶりと大口で食らいつつも、
ちゃんと中身を吟味している
抜かりのなさよ。

 「まぁな。
  そもそもの由来が
  “七つの福を巻き取る”
  ってことらしいからってんで、
  何処も何を巻いてるかで
  勝負したいらしくてな。」

ネクタイを解きつつ、
ゾロが補足とした言いようから察するに、
どうやら、各地の恵方巻きを一挙に並べて
さあご覧うじろというよな
イベントがあるらしく。
その代表を選り抜くための、
味見というか吟味というか
ほんのつい先日にも
これと同じほど大量の
恵方巻きのサンプルを
一気に食したルフィさんだった模様ですが。
それでも太らないなんて、
ぬぁんてうらやましい…。(笑)
立て続けに海鮮ものVer.のを
3、4本ほど平らげ、
中休みにとお茶を堪能しつつの
まずはのご意見が、

 「でもな、
  大阪のメル友のおねいさんが言うには、
  米も福の1つなのになって。」

そう、
本来はそうと勘定したはずなのですが、
これも某アベノミクス効果なものか、
ちょっと贅沢にも、
酢飯は別勘定にした上で、
今や 七つの幸を巻く代物が
主流となりつつあるらしい。

 「あ、こっちのは
  飛び子が入ってる。」

旨いのは認めるけどさと、
食いしん坊なルフィさんとしては
及第点をつけつつも、

 「その分、
  お高いんじゃあ意味ないじゃん。」

 「まぁな。」



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