■蒼夏の螺旋 3

□前倒しの かぶりつき
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名のある寿司店の品は、
物がいいだけ価格も割高。
そこはゾロも懸念しているようで、
こちらさんは
熱燗をつけた日本酒のお供として、
掟破りにも切り分けたもの各種を、
食べ分けておいでで。

 「ま、縁起物だから。」
 「年に一度の?」

寿司屋にしょっちゅう行くよな親父が
馴染みで
通ってそうな店のじゃんか これ、と。
忌憚のない見解というのを
披露した奥方だったが、

 「俺としてはァ、
  こういう行事は廃れちゃ困るしィvv」

打って変わって、
お眸々に
きらきらした星を
飛ばしもってのうっとりと、
そんな言いようを持ち出すものだから、

 「言うと思った。」

ゾロの側も苦笑が絶えぬ。
そう、何も美食家っぽい
“いちゃもん”をつけたいのではなくて、
あまりの盛り上がりっぷりが、
彼なりに心配なのであるらしく。

 「あんまり極端に盛り上がるとサ、
  飽きたり辟易しちゃう人が出て来て、
  ただのブームで
  終わりかねねぇじゃん。」

あっと言う間にブームが去った
ティラミスとか ナタデココとか
パンナコッタみたいにサと、
ちょっと待て
何であんたが知っているのというほど
随分と昔にブームだった
スィーツいろいろを、
指折り数える坊ちゃんだったりし。(笑)
20歳ちょっとほどというお年頃なら、
覚えてて クレームブリュレか
カヌレくらいじゃあないかい?
それか、フォンダン・ショコラとか…。

 「俺としては
  プリンとか
  ロールケーキとか派だけどな。」

 「おお、案外と庶民的なのな。」

ロールケーキと言えばと、
保冷ケースの下のほうから
ゾロが取り出したのが、

 「こういうのもあんぞ。」

七つのフルーツが入った
“恵方ロールケーキ”とやら。

 「やっぱり出たか。」

そういや、マックかどこかでは
トルティーヤの長いのとか
なかったですかね。
野菜とエビとか巻いて巻いてってのが。

 「カルビの海苔巻きや
  エビフライ巻きは
  総菜店なら
  普段からあるくらいだしなぁ。」

 「え? そうなのか?」

結構考え抜いて出した店もあるぞ、それと。
おおおと意外そうに驚くゾロだったのへ、

 「庶民のアイデアの方が
  裾野が広いってな。」

ふっふっふ…っと、
何故だか 我がこと自慢のように
鼻高々な奥方だったりし。
こっちのは
海苔に絵が描いてあるんだなとか、
あ、小柱入ってる、
俺これ好きvvとか、
1つ1つを丁寧に審査しておいでの
奥方の評が
果たしてどれほど響くものなのか。
ともあれ、
春の背中が見えて来つつある行事への、
カウントダウンも間近という、
それこそ“前倒し”なお話でした。





     〜Fine〜  14.01.24.





ちなみに、
今年の恵方は東北東だそうです。

ところで、
前倒しといえば
月末にもっと大事な日が
あるはずなんですが。
そっちのほうは大丈夫か、旦那。
うかうかと油断していると、
またぞろ、
あのサンジェストのおっ母様が
仰々しい垂直昇降機(ヴィトール)で
マンションまで乗り付けるぞ。(大笑)



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