残夏のころ 2

□あやかりOK♪
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ハロウィンで沸いた後は勢いよく秋が深まり、
子供たちの成長を祝う七五三のお参りにと運んだ神社では、
御神木の銀杏や楓、桜などなどが程よく色づいていて、
お祝い事へ花ならぬ錦を添える頃合いでもあって。
乾いた陽射しは昼下がりにもう茜の予兆を滲ませて寂寥感をたたえ。
閑とした空気の中、冴えた鳥の音がややもすると鋭く鳴り響き、
赤や黄色の色づきの鮮やかさ、華やかなのに何故だか淋しさとともに噛みしめる。

「…なんてシチュになるはずなんだが、
 この秋はなかなか生ぬるい気候なのが困りもんでな。」

テイクアウトのココアを手に
ストール巻いてツイードのコート羽織って、
ニット帽に足元はブーツ…ってのはまだ早いだろうが、と。
器用にも唇に挟んだ紙巻きたばこをやや上へと撥ねあげて
そんな愚痴をこぼしたラウンジのマスターなのへ、

「そういや、よっぽど朝早くないとまだ息も白くはならないしな。」

チシャとローストビーフと特製ドレッシングで和えたスライスオニオンのサンドイッチ、
あぐりと齧りついてはむしゃむしゃ平らげつつ。
言われてみればまだそれほど冷え込んではないなぁと、
腕白そうなお顔をかくりと傾げるルフィだったりし。
いつものバイト先ではなく、
親戚のお兄さんがラウンジを任されているカウンターカフェ in 輸入雑貨センターにて、
只今絶賛 腹ごしらえ中。
こちらのお兄さんへ 親御から預かってた進物のお裾分けを持参したついでであり。

「そうは言ってもイベントは待っちゃくれないもんな。」

高校生バイトという身ではあるが、ほぼ常勤と化しつつあるルフィ坊ちゃんの勤め先は、
産直をうたいつつも普通一般の食料品も扱う店なだけに、
○○の日というのは結構律儀に押さえてもいて。
ハロウィンも七五三も浚ったし、

「ぼじょれーだっけ? ワインも特別に当日だけ並べてたもんな。」

普段は のんあるのビールや第三のとか、発泡酒系しか置いてねぇのに、
ボジョレはどういうつながりがあっての揃えられたか、
島をわざわざ飾って特設コーナー作ってたし、と。
気のせいか ちょっとばかし憤慨顔になっており。
島というのは陳列棚の端っこ、売り出し用ブースが置かれるコーナーのことで、

「おいおい、ちょっと待て。お前未成年なのに売り子やったのか?」

飲んで見せるわけじゃあないとしても、
飲めない存在が勧めるのは順番がおかしいはずだが、
この坊ちゃんの知名度と、お母様層への人気を思えば、
あのお調子者で先読み深読みの巧みな赤髪の店長が
取り扱うのがお初のブツの売り出しへ登用しないはずもなく。
おいおいおいと呆れたという顔になったサンジへは、

「いや…俺がじゃなくて、ゾロが、だったけど。」

真ん丸なほっぺを膨らませ、ぼそりと声が低くなったのは、
何か不愉快な運びだったからに違いなく。

 “…おや。”

どうしたんだろうね、いい男だーって女性客に受けてたとか?
いやいや、あのぶっきらぼうが愛想を振れるわけがないしな。
売り場に立たされてた間は、屋外の青果コーナーには来れないわけで、
そこがこいつには詰まらなかったってとこだろか…なんて。
もうすっかりと、
問題のお兄さんとこっちの坊やとの相性だの、
自覚はなさそうだが相思相愛に近い想い合いしていることとか、
把握済みのサンジ兄としては。
居場所は結構離れていたって、そのくらいはお見通しであるらしく。

「……。///」

何と言いますか、
微笑ましいねぇという視線を向けられてるようだと。
そこはさすがに気づいたものだろか、

「そういや、流行語大賞、
 おりえんたるらじお入ってなかったなってシャンクスが首傾げてたぞ。」

そんな風に別の話を持ってくる。

「よくもった方だが、さすがにもう旬じゃないとか。」
「だって1年通じての話だろ?」
「それか、独りを礼賛してる感じの歌だったから、
 最近の某氏に引っかけて遊ばれたらやばいって思うやつがいたとか。」
「ソフトバンクがもうやってんじゃん、“私の方が大容量だ”っつって。」

自分から言い出しといて行き詰った“しりとり”みたいに、
下手くそな運びだったもんだから、あっという間に話が詰んだ。
実を云うと、覗きに行ったとき、ちょうどゾロが相手をしていた一団があって、
いやになれなれしいというか親しげだったので、
それが引っ掛かっておいでのルフィさんだったようで。

『ああ、それな。
 何でも、あの兄ちゃんの通ってる道場の先輩方だったらしいぞ?』

飲み会の買い出しにって、
わざわざゾロが立ってる売り場を、からかい半分覗きに来たらしく。
体育会系は先輩をそうそう邪険に出来ないらしいから、
声を掛けられれば応じもするし、やり取りもしなきゃならずだったのを、
親し気にしてたなんて邪推してしまった坊ちゃんだったようで。

 “面倒臭いあやかりだな。”

それほどモテない相手だってのにいちいち岡焼きする夫婦みてぇだと、
苦笑が絶えなかったサンジさんだったそうで。
来週の “いい夫婦の日”までには何とか修復しとけよ、
どんなイベント始めるか判らん店だからなと、
胸の内にて可笑しい可笑しいと くつくつ笑ってらしたそうな。



  〜Fine〜  16.11.19.






 *ちゃんと経緯を知ってる人は人で、わざわざ言ってやらんからややこしい。

  「何で俺がそんな、男同士の恋愛の美人局(つつもたせ)をせにゃならん。」
  「店長、正しくは“橋渡し”です。」

  そういう間柄なことへは“いやだ”という顔じゃないから始末が悪いと、
  ただ単に冷やかしたい気分が満漢全席な店長さんなのへ、
  この人はもうと、ため息をついた副店長さんが
  ちゃんと取り成してくれるから、まあ待て次週。(そんなに?)笑



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