■蒼夏の螺旋 3

□判らいでどうするよ
1ページ/2ページ


某有名商社の企画部にて、
独自の販路開拓を余裕でこなす部署の
最年少係長を任されて1年目。
密かに
“独立遊撃部隊”に
匹敵し得るとまで称され、
どれほどに未知の分野であろうと、
人任せにせず
自前の足で通ったことで培った信頼を
山ほどお持ち。
若いからこその当たって砕けろを
怖じけもせずに敢行した、
今時にはめずらしいタイプのお人で。
それがため、
今や提携先も含めた周囲からの期待に、
余裕余裕で応えておいでの
辣腕係長さんは。
精力的な外回りや、
積極的な交渉で知られている一方で、
集中して取り掛かっているよな
事案がない期間は、
一般事務の総務勤務でも
そこまでやらんぞと思うほど、
それは真っ直ぐ
帰路につくことでも有名で。

 『確か、
  同居している子がいるのよね。』

 『そうそう。
  年の離れた従弟さんで。』

 『こっちの学校に通うのにって、
  ロロノアさんチへ
  下宿してるとかどうとか。』

自らのことは
あまり語らぬ武骨な男だというに。
きりりと鋭角な風貌も、
強靭でこそあれ
人懐っこいとは到底言えぬというに。
それでもこういう話は、
誰かがどこかから聞き出すものらしく。
イケメンには
一通りの関心を寄せる女性陣には
放ってはおかぬだけのレベルで、
野性的でありながら、
折り目正しくもある二枚目な偉丈夫は。
だというに、
誰ぞといい雰囲気だという浮いた話も
はたまた、
女運が悪くて
また振られたというよな
沈んだ話もないまま、
今日も定時に会社を出ると、
自宅へひたすら真っ直ぐ帰るという
生真面目さを、
今日も今日とて敢行中。
早く帰ってやらねば、
同居している子が心細いだろうからと、
それでのことと
思われているようだけれど。

 だとしても、
 わざわざの“帰るコール”までは
 しないんじゃなかろうか。(苦笑)




勤め先の最寄り駅から乗り込む快速から
自宅の最寄り駅に停車する
普通列車へ乗り換えるおり、
背広の内ポケットから取り出すのがスマホ。
快速が先に出るその数分を利用して、
自宅へ…というか、同居人のスマホへと
今 乗換駅に着いたから…という
短い電話をかけるのが、
もはや日課になってる律義な御仁。
今時だと、
真冬よりは幾分か
陽の入りも遅くなっている頃合い。
夏場なら、帰り着くころだって
薄暮に明るい時間帯。
そんな刻限に 何てまあ健全なと、
呆れる方々も少なかないが、
ホントを知ったら…
やっぱり呆れられるかも?

 「……あ、ルフィか?」

 【 おお。
   あ、そっか
   もうそんな時間なんだ。】

ややうっそりとしていた目許が
パッと晴れたは、
呼び出し音が途切れて
目当ての相手が出たからで。
この時間に掛かって来るのが
セオリーな相手だというに、
意外そうな言いようをするのは、
それは伸びやかな、
十代くらいの男の子の声。
さすが、
ひところのガラケーとは
性能が違うということか、
相手の周辺の環境音までも、
まろやかなレベルになってはいるが、
拾ってくれてるもんだから、

 「何だ、どっか出先なんか?」

がやがやという
雑踏らしい雰囲気が伝わって来たので、
ああこれは
自宅じゃないなと気がついた。
それをまんま伝えれば、

 【 お、ゾロ鋭い♪】



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ