■天上の海・掌中の星 4

□冬 来たりなば
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食いしん坊さんの食事を担うようになって
どれほど経つものか、
気がつきゃ
たいがいの料理は作れるようになっており。
その上へ、個人的な嗜好というか、

 グラタンはやっぱりマカロニだな、
 ポテトのはちょっと苦手だ、とか。
 ナスの味噌煮は甘いほうが美味いっ、とか。

ルフィ特有の好みも、
もはや
レシピや計量スプーン要らずな感覚で
身についており。

 「わ・ゾロ、今日は何だっ!」
 「おお。お前こそ何だ、今日は早いな。」

住宅街の手前、
大通りから1つ外れた、
静かな通りへ入った途端に、
てーいっと飛びついて来た腕白さんで。

 弁当は持たしたよな。

 うん食ったぞ、
 フランクソーセージのフライと、
 高野豆腐の射貫き煮が美味かったvvと。

それは朗らかに笑って、
背負ったデイバッグを振り回すように、
その場でぐるんと回った
無邪気な子が言うことにゃ、

 「来週の初めに
  実力テストなんで、はよ帰れってサ。」

 「…そうか。」

襟元と前合わせのジッパー部分にボアつきの、
ライダージャケットにトレーナー。
動きやすいようにか、
やや大きめらしきカーゴパンツを、
だが、余裕で着こなす
練り込まれた体躯をした青年が。
ともすれば、ややがぁっくりと、
その逞しい肩を落としたのは、

 「そうだよな、お前ってのは、
  インフルが流行ってての学級閉鎖でも、
  やたっ遊びに行けると
  大はしゃぎしたクチだもんな。」

そんなお達しで帰されたからにはと、
机に向かうような
殊勝な子じゃあないというのが
最近のポストは
殆ど四角いということ以上に
判り切っていたからで。

 “…まあ今更だがな。”

体育祭も文化祭も終わったものだから、
あとは年の瀬まで、
暇を持て余してもいよう坊やで。
こういった小さな“出来事”を
楽しいイベント扱いに
したくもなるのもしょうがないのだろう。

 「なあなあ、買い物してきたんだろ?」
 「ああ。」

駅前の商店街からのお帰りらしい後ろ姿への
特攻を仕掛けたルフィさんであり。
肩から下げた
トートバッグの膨らみへとじゃれかかり、
何だろなんだろと
今宵のメニューを推理にかかる。

 「ネギが見えるから鍋だな。」

 「お、鋭いな。」

 「やたっ! えっと、
  魚の匂いがするから、
  ちり鍋だっ!」

 「…犬か、お前は。」

実は今朝方、
父君のシャンクスが
冷凍タラバガニをたんと送りつけて来たので、
まさか今から正月準備でもなかろうと、
さっそく鍋にと思いついた次第。
なので、確かにホタテとタラと、
エビも少々買いはしたが、
きっちりとパックにされているので
そうまで匂うはずがなく。

 「こっちは全然匂わんのか?」

ひょいと、
反対側の手へ提げていた紙袋を
持ち上げて見せ、
ほれと鼻先へかざせば、

 「え? …あ、コロッケだっ!」

 しかも菱屋のじゃんか、
 これが判らないとは
 何たる不覚〜〜〜。

 判ったから、食うのか食わんのか。

 食う食う食うっ!

やや荒っぽい構いようだが、
だからこそ、
遠慮の挟まらない、
いかにも仲のいい兄弟のように。
それは睦まじくじゃれ合いながらの
帰途を辿っていた彼らだったが、

 「……ルフィ。」
 「うん。」



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