■天上の海・掌中の星 4

□木枯らしの楽しみ方。
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夏の凄まじい暑さだったのが影響してか、
秋になってもいつまでも暑いまま。
いつになったら
紅葉が赤くなるんだろうかというほどに、
いつまでもいつまでも夏日が続き。
そうかと思えばゲリラ豪雨が炸裂するわ、
途轍もない勢力の台風が幾つも来るわ。
それがやっとこ収まって、
やれやれやっと秋かと思や、
ほんの何日かで
木枯らし吹くよな寒さが罷り越し、

 「今年のは
  とんでもなくせっかちな冬だよな。」

急ぎ過ぎて、
一月ごろの気温になってやんのと、
吹き付ける冷ややかな風のせいで
ふわふかな頬を真っ赤にして
家路を辿っておいでなのは 誰あろう。
大きな襟元にはボアがたっぷりはみ出した、
少し大きめのブルゾンジャケットを羽織り、
ふっかふかのイヤーマフに、
なかなかしゃれた虹色のニットマフラー、
フリースのイージーパンツに
ハーフブーツといういで立ちの、
モンキー・D・ルフィさんでは
ありませんか。
苦難の期末考査も終えており、
何とか赤点は免れたため、
採点休みの間や冬休みに
出て来いという補習は
受けずにすんでおり。
柔道部の練習も、
採点休みの間は
顧問のせんせえが出て来れないので
自主トレを頑張れとの名の下に
お休み中。
そうともなれば、
この年頃の子なら バイトに勤しむか、
クリスマスの雰囲気に沸く
繁華街にでも出掛けるか。
大いに遊びほうけるのが相場だが、

 そういうのより
 よっぽど楽しいことが
 あるものだから

用もないのに
街なかなんぞへ出掛けてもなぁと、
ついついの含み笑いに頬が緩む。

 「あ、ゾロ〜っ!」

手首や足首も大きめズボンとコートで
隙間なく防御して、
首元にはマフラー巻いてと、
言われた通りの完全防備をし。
顔だけは晒すしかないまま、
ポケットへ手を入れ、
ちょっぴり肩をいからせて風に立ち向かい、
てくてくと表へ出て来た坊やが
目指していたのは…といえば、

 「だあもう、
  ウチで待ってろって言っただろうがっ」

牛・豚・鷄、それぞれ3キロずつと、
紅鮭にサンマに
冷凍イカエビ海鮮ミックス、
生サーモンに、
マグロの短冊10パックなどなどなど。
配達してもらえない生鮮食品の山を、
肩から提げた
ぱんぱんのトートバッグのみならず、
雄々しい双腕でも軽々抱え、
帰宅の途についてた
頼もしい保護者こと破邪様で。

 「だってさ、
  待てど暮らせど
  戻って来ねぇんだもの。」

ぷんぷくぷーと、
まろやかな頬をますますと膨らませると、
すすけたアスファルトを蹴って、
てことこブーツを弾ませて、
お留守番に飽きて出て来た坊ちゃんが、
Pコートにカーゴパンツという、
ざっくりした恰好のお兄さんへ
楽しそうな小走りで駆け寄っている。

 「凄げぇな、買い物。」

 「これを1週間で
  喰っちまうお前も凄いぞ。」

 あ、1週間では言い過ぎだぞ。

 そうか?
 俺りゃあ毎週毎週
 こういう買い出しをしとるんだがな。

一通り何でもこなせるし、
身元に関する照会云々は
暗示でうやむやにして通して。
人の生活圏への紛れ込みようは
それで完璧かと思ったが、
ここが盲点だったというか、
車の免許を持っていないゾロなので、
こういう買い出しともなれば、
徒歩&自力でという運びになっており。

 「免許がないのを誤魔化せたとしても、
  運転そのものが出来ねぇもんな。」

 「うっせぇよ#」

何か持つぞと手を伸ばすものの、
どれも大物、
しかもみっちり重そうなので、
いいから任せなと
苦笑混じりにかぶりを振った
ゾロとしては、

 「手を出すと冷えるだろうが。」

つか、お前 手套はどうしたよ、と。
持つよ ほらと、
自分へと延ばされて来たルフィの手が
裸んぼだったことの方が、
気になっておいでなようで。
訊かれたルフィはルフィで、

 「…あ、忘れた。」

自分でもその手を見やり、
ありゃと、今の今
気づいたらしいところが何ともはや。
空っぽの両手のひらを自分へ向けて、
ひょこりと小首を傾げている様子は、
まるで
“夢の中では嵌めてたんだが、訝しいなぁ”
とでも言ってるようで、
微妙に可笑しい。
そんな間合いへ、

 「…とっ。」

ひゅんと背後から吹いて来たのが、
勢いのある風で。
柔道部のホープゆえ、
本人まではさすがに押されなんだが、
イヤーマフの上へ ややかぶさっていた、
まとまりの悪い黒髪が、
ばさばさばさっとなぶられ、
その先が頬を叩くのがくすぐったくて、

 「ひゃぁぁあぁ〜〜っ。」


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