■天上の海・掌中の星 4

□また来年
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クリスマスまでは
指折り数えてわくわくするのに、
それが明けたら 何か急に
ばたばたばたって勢いで
年末になだれ込むって気がする。
俺みたいな子供じゃあ、
することも限られてっからそうでもないけど、
大人ともなりゃ
時間が幾らあっても足らないそうで。
決算期末の詰めだか〆めだかとか、
忘年会とかも大変らしいし、
それが片付いたら
今度は家の方の御用が控えてて。
大掃除とか正月の用意とか、
帰省するならその準備もあるだろし、
遠いと列車に乗る苦行もあろうしな。
逆に親戚が集まる家だったら、
もてなしの用意や準備が要るそうだし。
そんなの関係ないねと海外に行けば行ったで、
お父さんは色んな手配や通訳や
どらいばーまで任されるから、
温かいところでのんびりと骨休めしてんだか
勝手の違う土地で
家族サービスの総ざらえをやらされてんだか
どっちだか判らなくなるのだとかで。
国内への居残りは居残りで、
一夜飾りでは縁起が悪いそうなのでと、
早めにお飾りを揃えの、

そうそう、おせちの材料や餅や、
三が日の間の食事のための買い出しとか。
初詣でとかで着物を着るなら、
早い目に出しとかなきゃショウノウ臭いしよ。
そうこうする内に大みそかになって、
煮物の匂いとかしてきて、
重箱や雑煮用の椀は
どこに仕舞ったっけって騒ぎになって。
そのうち夕方になったら、
晩ご飯食べながら紅白観て、
あれあれ?って気がついたら、
年越蕎麦を喰ってるところへ
除夜の鐘とか
ニューイヤー特番とか始まってて。

 「そうもそんな一息で、
  年が明けるまでを語りやがんのな。」

 「いや、こんくらい
  あっと言う間だってことで。」

口から吐き出される息が
ほやほや白くなるほどの寒気の中を、
二人連れだって歩むは駅前まで。
さほどの遠出じゃあないけれど、
それでも会話は弾みまくりで、

 それに、俺も大掃除とか手伝ってるしよ

 当たり前だ、
 大体、
 一番“大掃除”の必要があるのは
 お前の部屋だろが、と

緑の髪を短く刈った髪形で、
襟足もあらわと来て、
トレーナーの短い襟から出ている首回りが
この急な寒波襲来の中では寒くないものかと、
通りすがりの皆様に
等しく案じるような顔をさせておいでの
困った男性が、
連れの坊やへそんな憎まれを言う。

 「こないだも、
  持って帰ったばかりの
  部活のしおりと連絡先一覧を
  その日のうちに
  行方不明にしただろうが。」

 「う〜ん、そんなこともあったかなぁ?」

年明けすぐに行われるとかいう
“寒稽古”の集合場所が変わったと、
部長さんからメールでの連絡が来て。
だというに“あれ?それっていつだっけ”と、
そこからしてうっかり忘れ去っていた
困った坊やだったそうで。
そんな身で大掃除を案じるとは
片腹痛いと言いたかったらしいゾロであり。

 「他の場所は日頃から手をつけてるから、
  わざわざ
  大掃除の必要なんてないからな。」

油汚れとかで一番大変そうなキッチンなんぞ、
清潔にして整頓しておかないと
誰かさんから
いちいち難癖つけられるのが
うざったい…という順番から、
モデルハウスばりにきちんと片付いてるし。
風呂場やトイレも、庭も玄関回りも、
ルフィが学校に行ってる間は 暇なのと、
把握し切れていないところには
どんな邪気が宿るか判らないのでと、
湿気の多いところは特に入念に
チェックを入れるそのついで、
掃除や整理も手掛けるものだから、
今更 慌てて手をつけずともいいくらい、
十分きれいだぞと胸を張る、
大きなのっぽの君であり。

 「そっかぁ。
  ゾロって料理だけ
  行き届いて来たんじゃなかったのか。」

洗濯もアイロンがけも上手になったもんな。
あと、ご近所付き合いも行き届いてるしさと、
指折り数え上げるルフィさんなのへ、

 「おうよ、恐れ入ったか。」

ふふんと鼻高々に笑って見せるゾロも、
出会ったばかり辺りの昔を思えば、
結構こなれてきた模様。
冗談モードの口調へトーンを合わせ、
入った入ったと
こちらも嬉しそうに笑ったルフィが、
そのまま、
トートバッグを提げてない方の腕へ
はっしとくっつき、

 「じゃあさ、
  俺が大きくなったら嫁に来てくれな?」

ぬぁんてことを訊いたれば。
何を馬鹿なこと言い出すかと
焦ったり怒ったりもせず、
これまた落ち着いた様子で
ちょいと宙へと視線を投げ、
考える振りをして見せてから、

 「う〜ん、稼ぎによるかなぁ。」

 え〜〜? 二つ返事じゃないのかよ?

 甘い甘い、
 世界がお前中心にばっか回ってると思うな

揚げ足取ったつもりらしいが、
それって…聞きようによっては、
求婚の台詞自体は
受けて立ってるように聞こえかねません、
破邪様。(笑)
かように、
昼間ひなかの路上だというに
やや恥ずかしい会話を繰り広げている
立派にバカップルぽいお二人さんでもあって。

 「…まったくだぜ。」

ほりほりと後ろ頭を掻きながら、
そんなお二人の進路沿いに立っていたのが、

 「あ、サンジ。」
 「よお。」


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