■天上の海・掌中の星 4

□春も うららに…
1ページ/2ページ


天気がよくても陽が照っていても、
どこか寒々しい。
そんな冬の日が
いつまでも続いていたものが、
よく出来たもので、
春のお彼岸が過ぎるのに
合わせるかのように、
日中の陽だまりでは上着が邪魔なほど、
いつの間にかの春めきに
暖かくなっており。
春の陽射しはどんどんと濃くなって、
ずっと浴びていると
じりじりと熱いくらい。

 “でも、空は
  ややこしい色なんだよなぁ。”

 冬場の方がもっと
 濃色じゃなかったかな。
 それとも手前の壁とかが
 あんまり眩しいから、
 それではっきり
 見定めにくくてのことなんかな。

笹山さんチのは、
赤っぽいテラコッタみたいな
色合いの屋根だったはずが。
なのに白く弾けて見えるほど、
そりゃあいいお天気だからかなと。
わざわざ立ち止まったその上、
お鼻を立てるようにしてまで上を向き、
ようよう晴れた空を
見上げてござるのは。
ブレザー型の制服姿、
ネクタイがややよれているのは、
紛れもなく自分で結んだ証拠ならしい、
小柄だが背条はピンとした、
なかなかの存在感を
示しておいでな男の子。
春休みの真っ只中だろうに
この恰好なのは、
高校で所属している
柔道部の練習があったからで。
いつもなら午後の
もう少し遅くまで頑張るのだが、
今日は道場の一斉清掃の日だったので、
野球部やサッカー部が使ってない
グラウンドの隙間にて、
筋トレや柔軟だけで終わった次第。
なので、体力も有り余っており、
駅から此処までだって、
それは元気にパタパタと
駆けて来た彼だったのだけれども。

 「俺に目をつけても
  無駄なだけだぞ?」

住宅街の中のありふれた生活道路。
片側には月極め駐車場の
金網フェンスが連なっており、
反対側にはブロック塀。
肩の高さに飾りブロックが並んでおり、
菱形の穴の向こうには、
若い色合いの葉が茂る槇の梢。
伸びやかな細枝には、
陽が照らし出さずともその色なのだろ、
柔らかな若緑の新しい葉が、
天へと向かって伸びていて。
何とも目映い限りだが、

 「正気を保ててるうちに、
  天の次界へ戻るか、
  冥界に続いてる霊道を探せよ。」

正午近い時間帯ゆえ、
ブロック塀から落ちる陰は
殆どないほど短くて。
溝かと見紛うほどの
そんな隙間に、だが、

  ぎらりと瞬いたのは、
  何物かの息吹

気づく人は稀にあるが、
その輪郭までもが
見える人はまずはいない。
しかも、
互いの居場所をわきまえているよな
慎ましやかな
存在ばかりとは限らないため、
片っ端から 気づく身であることへ
時に閉塞感を覚えもした
ルフィであったが、

  ぐつぐふ、ヴァるるぅ、と

粘着質な泥を
くちゃくちゃと踏みにじるような、
何とも居心地の悪くなる響きがし。
見通しのいい、
春の陽にすこんと照らされた
一本道の空気が、
見る間にじわじわと
侵食されて淀んでゆく。
亜空間から様子見をしていた何物か、
極上の獲物を見つけたことから、
こちらへ移って来るための
大気の撹拌でもしたらしく。
それがそのまま一種の結界となるがため、
密閉された此処へは、
外から誰か何かが入り込むことは
出来なくなるはずが……


  「俺のシマで
   何ぁにをやらかそうってんだ? 
   ああ"?」



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ