■天上の海・掌中の星 4

□鬼門もいろいろ
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相変わらず、いきなりのこととして
こちらは夏日だ、
何の何のこっちでは
真夏日だったぞというほどに、
妙に気温の上がりやすい
初夏の列島だったりし。
本来は“クリアランス”といって、
季節の終わりに
売れ残ったものを値下げして
在庫一掃、
売り捌いていたものだったはずが。
近年ではアウトレットでもない
正規品による夏物のバーゲンが
夏が始まる前に
あちこちで催されていても
少しも不思議ではない順番に
なってるくらいだから。
この気象の前倒し、
相当なものだと言えるかも。
そういう季節感にまつわるものといや、
日本の学生さんには
“制服”という規制もあって。

 「クールビズが
  五月からなんだから、
  学校の制服も
  それへ併せて
  くれりゃいいのにな。」

分厚いブレザーを着て行かないのは、
さすがに先生方からも
容認されているようだけれど。
シャツはあいにくと長袖のままなので、
ぞんざいな腕まくりのまま
顔なんぞ洗おうものなら、
ずり落ちて来た袖口、
肘まで浸して
びしょびしょにしてしまうのだとか。

 「後は帰るだけとか、
  体操服へ着替える部活があるとか
  いうならいいけど。
  すぐにも授業なんてなったら
  結構絞っても拭いても
  机やノートが濡れるしなぁ。」

何より乾きが悪いから落ち着けぬ。
まま人目があっても
そんくらいってもんで、
教室入ってシャツ脱いで、
トレシャツにささって
着替えられっけどサと、
そこは男子だけに、
あっけらかんとした対処も
取れはするらしいが、

 「六月からが夏だってのは、
  昔の暦や
  平均気温からの話なんだろうから、
  今時の“地球温暖化”も考慮して、
  夏自体を
  前倒ししてくんねぇかなぁ。」

くどいようだが、
大人たちの“クールビズ”だって、
五月の頭から気温が上がることや、
それへと添うて
商業施設で
冷房をかけ始めることからの
対処なのだろに。
しかも、政府の環境庁が
率先してやってることなのだから、
だったら学生の制服へも、
せめて猶予期間の幅を
延ばしてくんねぇかなぁと。
いかにも不平たらたらな口調にて、
そうと言いたいらしい
ルフィさんのお言葉なのへ、

 「お前もなかなか、
  弁舌が立つようになったよなぁ。」

もうもうと上がる湯気の向こうから、
やや伏し目がちになっているゾロが
そんな合いの手を入れてやる。
そこは素直な坊やだし、
相手が大好きなゾロでもあったので。
やたっ褒められたvvと
受け取ったのだろう、

 「高校生だからなっ。」

新聞の
“てんせーじんご”も読んでんだぜ?と、
いやに威張りんぼな言いようになって
薄い胸を
“むん”と張って見せる
坊ちゃんだけれど。
やや平仮名っぽい発音なのは
明らかであり、

 “漢字で書けと言われたら
  危ないんじゃあないか?”

そんな杞憂を
その胸中へこっそりと浮かべながら、
大きな手で結構器用に
アイロンを操っていた破邪殿。
何とか形を崩さぬよう仕上げられたぞと、
アイロン台の上から
制服のズボンを引きはがし。
風通しのいいところへ下げとかないとと
クリップつきのハンガーを引き寄せて、

 「御託はいいから、
  とっととその
  “天声人語”とやらの
  書き写しに取り掛からんか。」

いいお天気が
掃き出し窓の向こうに広がる、
まだまだ明るい昼下がりの
リビングのテーブルへ
ごちゃごちゃ広げられていたのは、
現代国語のノートと新聞と。
帰り道で
水たまりを跳ね上げたという制服、
ウォッシャブル表示を確かめた上で
洗ってもらい、
アイロンを掛けんとなと
言い出したゾロを眺めてたくてか、
宿題だというそれらを、
此処で広げたルフィさんだったのだが。
さっきから何やらいろいろと
話しかけるばかりで
手が一向に動いていない。

 「もしかせんでも、
  それって こないだの
  中間考査に関係してねぇか?」

 「うう…。」

追試や補習を受けるのはヤだからと、
一応はお勉強も頑張っている
ルフィさんだが、
気が散りやすいのが困った点で。
三学期の期末考査は
確かソチ五輪と重なってなかったか、
今回のはGW明けに
卓球世界大会があったんだよなと、
その辺りの中継ものを
思い起こしてみる破邪様で。
それは無邪気に、
頑張れっ、やれっ、やたっ!と、
はしゃいで観ているものへ、
試験への復習はいいのかと
水を差すのも忍びなく。

 “…おまけに。”

ちょうどその辺りといやぁ、
ややこしい妖異に
手をこまねいていたところを、
乱入して来たこの子に
救われもしたものだから。
この荒くたいお兄さんでも、
そこは…立場的に、
微妙なことながら
つけつけ言いにくかった間合いでもあって。

 「今日のが済んだら、
  おやつを出してやっからよ。」

特製ソーセージと
キャベツのカレー炒めを挟んだ
ホットドッグの食い放題だ、と。
ご褒美を先に言っちゃうところが、
結局は相変わらず対処が甘い
保護者殿であり。
やったぁとはしゃぎつつも、

 「お題によっては、
  写しやすい日もあんだけどなぁ。」

それこそ、スポーツの結果を
解説者の人が
とやこう書いてる日のとかさと。
書き写しておいでと言われた日付のは
そうではなかったようで、
いかにも不平そうに頬を膨らまし、
む〜んと
口許尖らせまでしてしまうところが、

 “おいおい、
  何でそうも無駄にやたらと
  “構ってオーラ”を
  垂れ流すかな。////////” ←あ(笑)

ちなみに、それってもしかして
“無闇矢鱈”と
言いたかった破邪様なのかなぁと、
直観的に思ったあなたは 私と同類。

 “……っ。”

照れ隠しの八つ当たりとやらで、
あの精霊刀が
威容も物凄くぶん回されたなら、
手に手を取って逃げましょうねと、
場外でこそり約束したい、
雨上がりの五月の
とある昼下がりなのでありました。





     〜Fine〜  14.05.16.







試験に出る“天声人語”とかいう、
新書だか資料図録本だかが
あるそうですね。
そりゃまあ、
どのご家庭も
朝日新聞取ってるとは限りませんし。
でも だったら、
それを模試や受験の
問題文に出すってのは、
ちょっと偏向の傾向が
なくないかなんて思ったりするのは
考え過ぎなんでしょうかね。
ええ、ウチもずっと
朝日新聞を取ってる家ですが。


 

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