■天上の海・掌中の星 4

□凶魔降臨、鵺哭く森
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朽ちかけたその廃墟は、
どうやら随分と古い王宮の跡地であるらしく、
凝った間取りの跡が
そこだけ居残った石組みの基礎部に
見受けられ。
かつて此処にあって
生き生きと営まれていたのだろう、
国なり街なりの栄華を偲ばせる。
だが 今はといえば、
何かしらが生活している気配なぞ欠片もない、
ただただ乾いて朽ちた
“遺跡もどき”でしかなくて。
そこに人々がいたおりは、
美観や融通のため、剪定されていたのだろう
下生えや茂み、
立木などなどという緑の群棲が、
今は我が物顔で
これでもかと繁茂していて。
落ちた屋根の代わり、
天蓋のようになった梢が雨を遮っていたり、
蔓などが這うことで
何とか保たれている壁なぞがあるのだから、
順序が逆で皮肉じゃあある。

 「…っ。」

誰もいないはずの地域、
区画なのは間違いないのに、
かさりというかすかな物音がして、
漆喰も剥げた石の壁へ凭れていた少年が
その肩をひくりと震わせる。

 「何かいるぞ。」
 「ふえぇえぇっ?」

こちらの気配を悟られたくないか、
小声で告げたというに、
それを訊いた相棒が、
すぐさま 驚いたように
素っ頓狂な声を上げたものだから、

  きしゃあぁっっ! 、と

微妙に粘着質な金切り声が
やや離れた壁の向こうから聞こえて、
相手も思わぬ存在に当たる
こちらの気配に気づいた模様。

 「ありゃま。」

犬や猫といった
小動物レベルの声じゃあない。
何より、こっちにも覚えのある
威嚇の声だとあって、
ああ、やっぱりアレがいたかと、
確認出来ました的な顔になったのが、
真っ赤なマントを
小さな背中へ装備した少年の方ならば、

 「うひゃあ〜〜〜。」

自分の声で気づかせたのかなという
怯みもあってだろう、
あわわと口許を押さえた小さな手の先、
愛らしい蹄がややもすると震えておいでの、
小さな小さな直立トナカイさんが、

 「るふぃ〜〜〜。」

よほどに怖いか、早くも逃げ腰。
導師装備の堅苦しい道着が台なしなほどの
脅えようを見せており。
そんなまでの危機感に、
あわわと緊張しまくりな彼に引き換え、

 「こりゃ
  次の一歩で
  エンカウント(遭遇)だな。」

 「そそそ、そんな
  悠長な言い方してんなよなっ!」

随分と古ぼけた麦ワラ帽子を
ひょいと持ち上げ、
その下になっていた
まとまりの悪い黒髪を
もしゃりと掻き回す手は、
美しいとは言いがたいが、
さりとて武骨な大人のそれでもない。
造作や動作が
まだまだどこか幼くも大雑把であり、
よほどの怪物が
こちらへ気づいてしまったらしい
状況下だというに、
その頭へぽそんと再び帽子を乗っけ、
やはり無造作に
鼻の頭を押し潰すようにして
ごしごし擦るところがまた、
随分と結構な豪傑なようで。

 「恐らくは此処の大ボス、
  アンシェント・ドラゴンだってのにっ!」

 「でもよぉ。
  それを倒さにゃ、
  このエリアはクリア出来ないんだぜ?」

胸倉掴まれているのだが、
体格の差から
抱きつかれているだけにしか見えない。
そんなまで勢いよく、
抗議の声を上げるチョッパーさんへ、
やっぱりのほほんとした調子で
返事をするルフィさん。

 「ということは、
  ずっとずっと
  このエリアに
  居なきゃなんねぇワケで。」

 「ふえぇえ…っ。」

 「チョッパーとしては、
  緑が多くて
  居心地もいいかもしんないが。
  俺としては
  もちょっと人が多いとこがいいなぁ。」

第一、教会も宿もないから、
全員が倒れないと
パーティーが欠けたままで
続けにゃならんしと。
何だか物騒な言いようをして、
中世欧州辺りの設定か、
こちらも微妙に
コスプレもどきないで立ちの彼が
ワクワクしていることこそ
何とも不安なのだろう、

 「せ、せめてサンジかゾロが居れば、
  大ボスドラゴンでも
  力押しで倒せただろうに。」

うううと気弱そうに
つぶらな瞳で見やった先では、
雑草に埋もれかかった
石段の真ん中にそれぞれ、
同じ仲間内だったらしい
誰かさんたちが倒れ伏しておいで。
そちらさんたちも、古めかしい導師服だの、
はたまた騎士ぽい装備だのを
身にまとっている、
金髪と緑頭の…
どうやらお馴染みのお二人らしいのだが、

  ―― 声を掛けたが返事がない。
    しかばねのようだ。

 「大体よぉ、
  サンジは
  ゾロに先制取られるのが癪だっつって、
  闇雲に飛び出してっては、
  相手からの後攻魔法で
  あっさりやられるし。」

しかも美人魔女に弱いしと、
そういう手合いにやられたか、
お顔に口紅によるキスマークを幾つも押され、
本人は満足そうに倒れておいでの
金髪痩躯の盗賊シェフさんなのへ
肩をすくめたルフィさん、

 「ゾロはゾロで、
  剣士ってジョブがないもんだから、
  戦士でも騎士でも
  防具の装備を着ないと
  防御力ないぞって言ってんのによ。」

 「だよね。」



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