■天上の海・掌中の星 4

□秋は大忙し
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いつからだろうか、
天体ショーという言葉が
特に天文に関心がない人の口からも
聞かれるようになった。
途轍もなくの昔、
ハレー彗星の急接近が話題になって、
それへの解説のみならず、
まつわる歌だのドラマだのまで
世に飛び交ったほどの
一大ブームになったもので。
いやいや、それより古く
“ジャコビニ流星群”というのがあってねと
某超人野球マンガを知ってる人なら
御存知のがあったり。
何のもっともっと大昔には、
時の帝や朝廷が
衰えたり起こったりを暗示するものとして、
凶星とか瑞兆星として
古い書物に記されてもいるぞと。
さすが、深夜の空を不意打ちで翔る
異様で壮大な現象だけに、
ずんとずんと昔からも、
世を騒がせたものではあったらしいけれど。

 とはいえ、昨今のそれは
 微妙に違うような気もして。

 「太陽系の惑星が
  全部一直線に並ぶとか、
  凄いには違いないけど
  言われなきゃ
  気づきもしなかっただろうことまで、
  最近のニュースでは扱うからなぁ。」

某あんじぇりーな・じょりーさんの
トレジャーハンター映画にも
出て来ましたよね、それ。(もう古い?)
いろんな流星群にしてもそうだし、
一際でっかい
“スーパームーン”が
今年は3回もあったこととか、
皆既月食もそういや
普通の時間帯のニュースでやってたよな。

 「惑星イトカワから
  はやぶさが戻って来たのも
  チョー凄かったけど、
  今の定着ぶりってのは、
  それが発端ってこともないもんな。」

赤が基調の
タータンチェックの大きな毛布に
頭の先から肩や背中や、
座ってるお尻は言うに及ばず、
そこから伸ばした脚までもという
全身を覆う ぐるぐる巻きとなり、
腕白そうな童顔をだけ、
何とか外へ覗かせておいでの
ルフィ坊やだったのへ、

 「…………。」
 「熱なんかねぇぞ、サンジ。」

つか、風邪気味とかだったら
ゾロが屋根に上げてなんかくれねぇしと。
黙ったまま
こちらのおでこへ白い手を伏せた、
ダークスーツもバシッと決まった、
金髪痩躯の天界の天才シェフ殿の
いかにもな態度へ。
そんな言いようを向けるところが、
まだ穏便というか、

 「馬鹿にしてんじゃねぇって
  ツッコミが返って来ねぇ。」

 「俺はお笑い芸人か。」

今度こそは
“いい加減にしなさい”という
裏拳でのツッコミが、
ペシッと宙で振られたものだから。
おおお、それでこそと、
今度は自分の胸へホッとしたよに
手を伏せる、
天巌宮の貴公子様だったりして。

 「そんな言うお前こそ、
  天文ファンとかじゃあ
  なかっただろうがよ。」

いつだったか
朝も早よから金環食が観測出来た日とか、
陽の高いうちに起こる現象や、
宵の口の七時八時が見ごろだった
先日の月食程度ならともかくも。
このごろでは五時を回ると
もう暮れてしまうお天道様と、
余程に気が合う性分をしているものか、

 「十時を回れば
  欠伸が止まらなくなるハズの奴が、
  日付が変わろうかって
  時間帯に起きてりゃあ、
  俺でなくとも驚くわい。」

しかもしかも、
天文関係の専門的な物言いを
滔々と連ねるのだもの、

 「どっかのタヌキが
  化けてでもいるものかって思ったが、」

 「わあっ、美味そーっ!」

揚げたての
フライドチキン&ポテトの大籠盛りに、
ほかほかのコーンポタージュを
保温カップへそそいで持って来たのへ、
さっそく視線で食いついており。

 「熱っちっ、あちあちっ!」

 「完璧に姿をなぞっておきながら
  こうまで詰めが甘いんじゃあ、
  辻褄が合わんから本物だな。」

猫舌なくせに頓着なくパクリと齧りつき、
うあっと慌てて見せる迂闊っぷりは、
間違いなくルフィさんだと、
妙な関心をしているシェフ殿で。(笑)

 「言ってやるな、
  宿題らしいぞ。」

 「おや。」



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