■天上の海・掌中の星 4

□師走の晩に
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こんな時期に
思いがけなく柔道の世界大会があって。
期末考査も何とか終えた
解放感もあってのこと、
リビングの大きいテレビで、
行け、そこだ、
あああ今のはもっと踏み込まにゃあと、
迫力の戦いぶりを
観戦していたルフィだったが、

 「………………あれ?」

何だろう、何か届いた。
音というか気配というか。
片やの脚を座面へ長々伸ばしてという
寝そべるような
座り方をしていたソファーから身を起こし、
リビングをぐるんと見回してから、
最後にその視線が撫でたのが
庭へと向いてる掃き出し窓で。
まだカーテンを引いてはなかったその向こう、
外はもうすっかりと陽も落ちて
真っ暗になっているせいで、
室内を映し出してるばかりのはずが、

 「………みゃ〜ん。」

 「お☆」

窓の下辺、小さな小さな影があり、
かすかに届く細いお声を出しつつ、
紅葉みたいな愛らしいお手々で
ぺちぺちと
しきりにガラスを叩いておいで。
勿論、ルフィも素早く立ち上がっており、
駆けつけたそのまま
もどかしげに錠を解いて窓を開ければ、

 「にゃん♪」

小さな影は
警戒も遠慮もあったもんじゃないとの勢い。
ぴょいっと飛び上がって入ってくると、
待ち兼ねたぞ・もうもうとの当然顔で、
そのままルフィの懐ろへ
飛び込むように飛びつくものだから。

 「ああ、待て待て久蔵。
  お前だけか? 兵庫やクロは?」

小さくて柔らかな
キャラメル色の仔猫さんを抱えてやりつつ、
まだ開いたままの窓から
外を見回そうと仕掛かったところへ、

 《 こんばんわ。》

頭の中へという独特の聞こえ方がして、
身を乗り出そうとする支え、
板の間に無造作に手をついていたすぐ際へ、
もう一つの小さな影がとんと飛び込んで来た。
おっ、と見下ろせば、
そちらも小さな黒い仔猫で、
丸ぁるいお顔を真上へと向けて見せ、
みゃんと糸のような
細い声で鳴いたのが何ともあどけなく。

 「クロか。よく来たな♪」

今聞こえた不思議なお声が
この子のそれだと分かるほど、
素性込みでようよう知ってるお相手二人。
黒猫さんも一緒くたに抱きかかえ、
ある意味で器用にも窓を足で閉めると、
元居たソファーへ よいせと戻る。

 「外は寒かっただろ。
  あ、こっちのムートンぬくといぞvv」

戻ったソファーのすぐ傍ら、
引き寄せてあったローテーブルの上には、
ポップコーンやポテトチップスにピザ、
コーラのペットボトルが並んでおり、

 「これとか まだ温ったかいぞ。」

食パンの間に
ハムとチーズを挟んでグリルパンで炙った
誰か様謹製のグリルサンドを
ほれと小さめにちぎって差し上げ。
懐ろに収まったままながら、
いつの間にか…メインクーンという仔猫から
金髪も愛らしい
小さな坊やの姿となっておいでの久蔵くんへ、
ふうふう・あ〜んと食べさせる所作は、
結構 物慣れており。
別の機会に訊いたなら、
子犬や仔猫に懐かれる性なので、
構う手際もよくなったのだとか。

 「……vv」

そちらも素直なもので、
差し出されたそのままぱくりと食いつき、
小さなお口を両手で塞ぐと、
あむあむと噛み締めつつ
美味しい美味しいと
眸を細める様子が何とも愛らしい坊やへ。
そか美味いかと
自分の手柄のようにお顔をほころばせ、

 「ほら、クロも来い来い。
  そいで食え食え。」

離してもらったのでと、床へ降り、
そこでお座りしている黒猫さんへも声をかけ。
何だよ、他人ぎょーぎだなぁと、
おいでの手を延べる坊やなの、
こちらはこちらで
内心微笑ましいなぁと思った黒猫さん。
実はこのお家と同じほどという
巨躯が本体をした、
ある意味で“妖かし”さんなのであり。
実際の年齢は
そこいらのご長寿さんでもおっつかぬ、
何百年もという存在。
妖異関わりの
ちょっとした縁があって
知り合いとなった久蔵の傍へ、
そちらさんなりの事情があって
現れたクロだそうだが、
ルフィにしてみりゃ
“お友達が増えた”程度のことらしく、

 「クロが小さいままなんは、
  この家へ入り切れないからだろうけど。」

大きい方の姿も知っていながら、
そんなことまで言うくらい。
そうまで屈託のないところは
クロの方でも重々承知であったが、

 「久蔵が子供のまんまってのは
  珍しいよな。」

そうと続いたのへ、
おや そこへも気づいたかと、
かくりと小首を傾げる所作を見せる。

 《 珍しいかな?》

仔猫の姿からの転変でさえ、
驚きの変身だというに、
幼い坊やの姿だということは、
本来の青年の姿なりの
物言いも封じている君だということ、
そこも通じておいでのルフィへと、
代理のようにクロの方が応じれば、

 「おお。いつもだったら
  何か追っかけて来ていたからか、
  大人の方になってるじゃんか。」

 “さすがだねぇ。”

子犬や仔猫のみならず、
妖異や怪異にも慣れておいでの
ルフィなことを、
クロさんの側でも知ってはいて、

 《 なに、この家の周りに
   相当強い結界が張ってあったのでな。》

見栄えはいかにも愛くるしい仔猫だが、
ものの言いようはずんと大人で。
それへと微妙にウケているらしいルフィが、
とはいえ、その言われようには
“ああ”とすぐさま気がついて、

 「ほんのついさっき、
  ゾロとサンジが
  何かを封印しに出てったんだよな。」

次はどれが良い?と
お膝の坊やへ訊きながら、
別に隠すことでも無しと、
あっさり応じて差し上げる。
霊感も強ければ、
その身のうちへと蓄えた
霊的覇気も強いらしい坊やゆえ、
日頃“守護”として
傍らについている破邪殿が現れるまでは、
小者にまとわりつかれたり、
ちょいと危険な手合いに憑かれかかったり、
難儀もたくさん抱えていたらしいのだが、

 「そん時に、
  サンジが一応の結界を
  張ってってくれたらしくてサ。」

今は手厚く守られており、
彼をと狙って寄って来る存在へも
万全の対策が取られておいで。

 「みゃう。」

そんな会話を交わしておれば、
甘いスィートポテトを
あむあむしていた久蔵坊やが、
自分も加わりたいか、
そんなお声を掛けて来る。
クロの通訳が不思議と要らないルフィさん、

 「お? お前も守ってくれるってか? 
  頼もしいな。」

えっへんと言いたいか、
薄いお胸を張りながら、
見上げたそのまま向背へと倒れ込みかかり。
あっはっはと笑って受け止めた、
それは朗らかな
お留守番の坊っちゃんだったれど、

 “ただ、何でだか
  外からの脅威向けだけじゃあなく
  内からの力へも
  結界が張ってあったのが
  不思議なのだがな。”

なので、
入ったはいいが
そのまま出られなくなってもコトなのでと、
久蔵は子供のまま、
クロも仔猫のままでいるだけのこと。
だがだが、何となく
それをお留守番のこの坊ちゃんへは
言ってはいけないことと思えた辺りが、
クロさん、なかなかに練れておいでで。
不思議な配慮だなぁと思ったものの、
留守番しているこの坊やへも
効果の及ぶことかも知れぬと、
外へ出したくないのかも…と
朧げに案じた辺り、

  保護者代理の破邪さんや
  聖封さんたちの苦労を
  ちらと忍んで
  しまわれたそうでございます。





     〜Fine〜  14.12.08.







更新の間が空いた挙句、
非常に判りにくい
ゲスト話ですいません。
 参照,『とある真夏のサプライズ♪』

いやもう、
いきなり寒波が襲来した師走ですね。
冬のあれこれ出してなくて、
機能性温熱下着(ババシャツ)を
発掘するまで間がかかり、
部屋の中なのに殺す気かと思ったほどの
寒さに晒されておりましたよ。
そのくせ、
暖房ではエアコン使いたくない
矛盾した奴でございます。
(昭和世代ですんで、
 そんな贅沢は なかなか…。)
こんな寒い日は、
久蔵ちゃんとかクロちゃんとか、
可愛くてモフモフしたのを
ギュウしたいなと思いましてvv



 

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