■大川の向こう 2

□春と言ったら?
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全国的に話題になったほどの雪こそ
さして降らなんだけれど、
それなりの寒さには襲われて。
だっていうのに、
そこは世間を知らないからこその
罪のなさ、
寒かっただけで
雪は降らなかったのを差して
“つ〜まんな〜い”などと
口々に言い立てるほど。
子供らが相変わらずにお元気な、
こちら、
とある大きな川の中洲の
小さな里にも、
いよいよの、
待望の、
待ってましたの春が来て。
公園や船着き場、
取水口近くなどなどに植えられている
自慢の桜も見事に満開となり、
年頃や職場別に、
昼に夜にと
花見の相談も盛んとなりつつある中。
駆け回っているうちに
上着をどっかへ
置いて来てしまう腕白たちへ、
探して来いと叱り飛ばす
お母さんのお声も
ある意味“風物詩”なら、
神社の境内や丘の上の公園など、
さほど多くはない遊び場のあちこちで、
お下がりもいまだ当たり前に
為されている里なため、
名前があっても
今現在は誰のだか判らないのと、
あとは…躾けのために、
わざわざ届けてあげる大人は少なくて。
どうせ明日も此処で遊ぶ子なんだろしと、
風に飛ばされないよう、
常夜灯の支柱や
ブランコの柱なんぞにくくってもらった
子供用のジャンパーが
夕方のそこここで目につくのも、
ああ春だねぇなんて、
大人たちに感じさせる
この頃合いの風景の一つだったりして。

 「る〜ふぃ〜」

まだまだ小さい組ながら、
そういう腕白たちの筆頭でもある、
里で一番人気の王子様。
ここいらの流域全般での
荷船を運用している会社の社長の次男坊、
ルフィ坊やも、
その“忘れ物”の常連であるらしく。
ご神木の案内板の支柱に
くくられてあった上着の、
あまりの鈴なりっぷりに(笑)
おみくじじゃないんだからと見かねたか、
神社の宮司さんの奥様が、
わざわざ持って来てくださった
上着が何と8枚もあり。

 『ルフィちゃんはいつも
  ハイカラなの着てるし、
  何と言っても
  可愛らしくて目立つからねぇ。』

しっかと名前が記されていたことも
勿論あったし、
全部同じ名前で、
しかも真新しいということは、
誰かのお下がりとも思えない。
それより何より、
それを着て駆け回ってた姿は
印象的だったので、
ああ、あの子のだねぇと、
宮司さんご一家ならずとも、
すぐに持ち主が判ったそうで。
8枚も取っ替え引っ替えできるなんて
衣装持ちなんだねぇと、
感心しちゃったらしい奥さんには
悪気もなかろうが、

 「そうまで物を粗末にしとると、
  その内 バチが当たるぞと
  注意されたよなもんだぞ、お前」

あまりに愛くるしいもんだからと、
他でもないこのお父上ご本人が
猫っかわいがりしてのこと。
兄のエースのお下がりでは
サイズのみならず、
似合う雰囲気(カラー)も違いすぎるのでと、
やたら新しいお召し物を揃えたからこそ、
どこかへ忘れて来ても困りはしない、
“ま・いっか”で
済まして来たルフィさんだってのに。

 「バチが当たるは良かったよなぁ♪」
 「エース、聞こえちゃうわよ?」

お説教に水を差しちゃあいけませんと、
マキノさんが口元へ
人差し指を立てて見せた…ところまで。
キッチンで交わされていたそんな会話が、
まんま筒抜けのお茶の間では、

 「〜〜〜〜。」

日頃はルフィを甘やかしまくり、
なのにご本人へは
からかい半分な態度が多いせいで、
まったくの全然通じてないという、
素直じゃないやら不器用なやら、
いろんな意味で困った父である
シャンクスさんが、
いつになくの珍しくも
お説教モードであるがため。
ルフィの側でも神妙になってのこと、
小さなお膝を正座に畳み、
四角く座って拝聴してはいたのだが。

 「………シャンクス。」
 「なんだ。」

申し開きや、
ごめんなさいなら聞いてやろうと、
懐ろ深い父として、
厳かに応じたそんな彼だというに、

 「もう終わりか?」
 「………はい?」

 オレ、今日は
 “とっきゅうじゃー”の
 色決めがあるから
 どーしても公園に
 行かなきゃなんねんだよと、

 『大事な寄り合いがあるみたいに
  言うかな、あのヤロめ』

新しく始まった戦隊ものの、
ごっこ遊びのときに
どの役をするのかの優先権、
それを決めるという、
おちびさんたちには
なかなか大事な集まりがあるそうで。

 『だってよ、
  今年のは赤が
  なんかケーハクだし。(失敬な・笑)
  オレいつも
  緑か黒がいいって言ってんのに、
  気がついたら
  赤いのばっかなんだよな。』

何でも、変身の決めポーズを
真っ先の一番上手に
マスターしちゃうからだそうで。
後から出て来る奴とかのほうが
なぞの過去とかあって
凄げぇカッコいかったりすんのにさ。
あと、赤の役って
倒されかかる話も多いから
そんな真似っこもあって
いちいちメンドクサイのにサ、なんて。
既にいろんな方面へ
罰当たりなお言いようを
公然となさっておいでの
ルフィさんだったりするのであり。
(ホンマに…)

 「まあ、もういいよ。」

こりゃあ何を言ったところで
ろくに聞いてねぇなと、
やはりキッチンからの
大小それぞれの笑い声を聞きながら、
早速サジを投げたお父様が
どこへなりと行けと手を振れば、
にゃは〜と嬉しそうに微笑った坊や、

 「じゃあ行ってきます。
  ……っつって、イテぇ〜〜〜。」

ところが、立ち上がり掛けたそのまんま、
バランスが保てず
あやあやと畳の上へ
つんのめってしまったのは、

 「…お前なぁ、
  ほんの5分も座ってなかったのに
  もう痺れてどうすんだ。」

 「ふえぇえ〜〜〜。」

あらあら大変と
立って行ったマキノさんを送り出すよに、
エースお兄ちゃんが
“あっはっはっ”と大爆笑したのは
言うまでもなくて。
ほのぼの暖かい春の到来、
あんまり羽目を外さないようにねと、
どこかの梢で尾の長い小鳥が、
チィチィと応援するよに鳴いてた、
卯月のとある朝でした。





     〜Fine〜  14.04.03.







三寒四温どころか、
連日GW並みの気温に
なっておりますが、
花粉の猛威以上に
桜の満開っぷりを
観に行きたい今日この頃。
ゾロ兄ちゃんは出て来ませんでしたが、
坊やがカッコいいところを見せたい
筆頭だと思われますんで、
今年こそは緑のポジションをゲットして、
お兄さんへ見事なキックを
ご披露してください。(違)



 

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