■大川の向こう 2

□見かけじゃ判らぬ
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ここ最近は、
梅雨でも夏の夕立でも
ないらしい豪雨が凄まじく。
厳密に言やあ、
梅雨前線も影響して、だとか、
入道雲が発達して、という
大雨ではあるものの、
その土地の1カ月分を
数時間で降らしたとか、
この時期には
あり得ない寒気が南下して来ていて、
大気が異常なほど不安定だったからだとか、
そういった“想定外”な
豪雨雷雨が突然襲っての、
災害規模の大雨が
あちこちで頻繁に
降るようにもなっており。

 「そんなせいもあるのかなぁ。」

 「うんうん、
  急に涼しくなったもんねぇ。」

同じく ここ最近の夏といや、
どこそこで最高気温を出したというの、
競い合ってたほどの酷暑が当たり前で。

 あちこちが
 節電を呼びかけ出したのと
 重なってなかったかな

 そうそう、そうだったよね

地球温暖化の影響か、
今更
ビルの屋上に庭作っても
追っつくまいよなんて、
諦め半分になってたところが、
この夏は何だか妙な案配で。
立秋過ぎてたから
暦の上では秋ではあったが、
まだまだ“残暑”が厳しいはずが、
一気に涼しい風が吹き、
爽やかなお天気が続くようになって。
これはこれでまた、
尋常ではない急ぎ足、
それでなくとも
日照不足で秋の味覚の実りが
間に合ってないのに、
せめてお陽様だけでも
よう照ってくれないかと
丘の斜面で
葡萄を丹精しているお家のおばさんが
こぼしてて。

 お空もお空で、
 身勝手な人間の思惑なんぞに
 読まれてたまるかって
 ムキになってんのかも
 知れないなぁ……。






大川の中州の里は、
集落としての絆が
まだまだ深いせいか、
働き口こそ他所に求めても
何だかんだで里帰りする人もまだまだ多く。
盆と正月のみならず、
春と秋のお彼岸の帰省でも
ほんの少しばかり人口が増えるほど。
ビワやキョウチクトウの生け垣に
挟まれた細道を、
ドルルル…と疾走する
スクーターを見かけた子供らが、

 「あ、ピザ屋のスクーターだ。」

 「○○ちゃんトコ、
  おじさんたちが来てんだな。」

歓声上げつつ、でもでも遠巻き。
だから事故は起こらないという、
幸いな効果を見せるのもこの時期で。
日頃は滅多に見ない存在が
小さな里にお目見えするのでもって、
ああそういう時期だねぇ
なんてのが知れるのも、
これまた いかにも今時というものだろか。
ちなみに、
十月の体育の日の小学校の運動会なぞ
、ほぼ町内会行事であり。
PTAでもなかろうご家族も参加する、
丁目対決の競技も幾つかあって。
それもまた帰省する理由になっているから、
どんだけ仲がいい里なんだかで。
(大阪の某だんじりの町のよう…)
今時の若いクチともなれば、
お彼岸には戻れずとも
こっちには帰って来るというような
同窓会気分で
やっぱり帰省して来る顔触れも多く。
こんの罰当たりがなんて
親御から叱られつつ、
それでも明るい声が絶えない朗らかさ。

 で。

日頃は需要がないので、
デリバリのビザチェーンはおろか、
寿司やそばなどの飲食店自体、
里の中には一軒もない。
艀で渡れば
ほんの何分かで着く大町に行けば、
何でも揃っているので不都合はなく、
したがって店屋物の出前というのも
滅多に見かけないのだが、
大人数の来客があって、
しかも幼い子供や若い人が
顔触れに多数を占めていると
そういったメニューも
注文する必要に迫られるもの。
今時は公園で花見中という集まりへも
配達してくれるとはいうが、
こちらだとどうなるかといえば。
ごくごく当たり前に艀を使う手もあるが、
すぐにもお届け致しますがモットーの
チェーン店だと、
ここでの搬送業を営む回船問屋、
もとえ、某廻船会社と契約し、
繁忙期のみの特別便を出してもらっていて。
ピザでもタンドリーチキンでも ほか弁でも、
出来立て同然の品が
あっと言う間にお茶の間へ。

 「そうか、
  “とびうおライダーズ”が
  お目見えの頃合いなんだねぇ。」

川なのに海の魚はまずくないか、
流れを逆上るから
鮭でも良かったんだけどもなと、
大人たちがお気楽な話に沸いてる中、

 「これで 秋だなぁって
  感じるって作文に書いたら、
  先生から、
  それは
  ウチの里だけの話だからなぁって
  ビミョーな顔された。」

作文課題は、
毎回 授業中に“読んでご覧”と
指されるルフィ坊や。
それは元気よく朗読したらしく、
三重丸に花びらの縁つきの花丸が
神々しいものの、
そんな風に言われたのが
何でなのかが判らないらしく。

 「…大っきくなったら
  判ることだ、きっと。」

地面はこんなに平らなのに
地球は丸いのって何でかとか、
手に掬った水は透明なのに
海が青いのは何でかってことみたいになと。
どうやらそういう面倒なことも
訊かれたことがあったらしい、
ルフィさん専属お守りの
坊主頭の剣道少年が、
それは要領良く答えてやっており。
待ち合わせた特別便の桟橋から、
じゃあお家へ帰ろうねと
里のほうへの小道を進む。
特に穏やかな笑顔を向けるでなし、
小さな腕白さんの頭を
しきりと撫ぜてやるでなし。
ルフィが殊更
懐いている顔触れの中と限れば、
もしかせずとも
一番無愛想かもしれないお兄ちゃんだが、
それでもルフィの側から
そりゃあもうもう懐いていること、
里の中では知らぬ者がないほどで。

 『それはあれだ、
  どんなささいな話であれ、
  ちゃんと真面目に聞いてやるし、
  約束は必ず守るし、
  いいことをすれば
  ちゃんと褒めてやる誠実さを、
  あの幼さで
  しっかり身につけて
  おるからだろうよ』 と

里の大人たちが一目置いてる
指物師の老師が、
誰かさんには
相当に耳の痛い言いようをして
諌めたとかどうとかいう、
親御たちの話はともかくとして、

 泳ぎの会だけは温くなるといいな。

 おうっ。
 今年はな、
 くろぉるも出来るよになったんだぞ?

 それは凄いな。

 でもオレ、
 ゾロみたく
 たくさんを速く泳ぎたいなぁ。

 それにはもっと練習だな。

 うんっ!

お茶の間の畳の上ででも
バタ足と腕のれんけーの練習してんだぞと、
胸を張り張り報告する、
屈託のないガキ大将さんへ、
いちいち“うんうん・そうか”と
相槌を打ってやる小さなお兄さんと。
とたとたと坂道をゆく二人、
足元に滲む小さな陰も、
夏場よりかは長くなり、
高い高い空には羊雲が群れをなす。
小さな里にも はやばやと、
秋の気配がまかりこす……。





     〜Fine〜  14.09.23.







大人たちから
たらい回しにされた坊やからの
“どうして?”に毎回付き合ううち、
最良の答えを編み出したらしい
ゾロくんなようでございます。
そして、
彼らのそんなやり取りを耳にした
レイリーさんが、
某赤髪のお父さんに
“間違いのない先への
 丸投げとは良い父親だの”と
にっこり微笑って灸を据えるのも
間違いなかったり致します。(怖)

あと、ルフィが
作文を毎回読まされているのは、
お元気で朗らかな読み方が
聞いてて楽しいからだ
というのは勿論ですが、
あまりの悪筆から、
何て書いてあるのか
先生にも判らないから
だったら笑えます。
こればっかりは
ゾロお兄さんにも直せません。
(だって彼には
 特に問題なく読めるから。)笑


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