■蒼夏の螺旋 3

□さりげに勝負?
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今冬は久々というレベルの暖冬で、
さすがに大寒過ぎるころは不意打ちのようにぐんっと寒くなりはしたが、
北海道や雪国ではさすがにドカ雪も降ったし吹雪が荒れ狂いもしたらしかったが、

 「北海道の雪まつりで雪像が溶け出したんだってな。」

頑張って作った雪像が溶けて崩れかかったという話も聞こえるほどに、
やはりやはり、この冬は例年と違って随分と暖かいらしい。
奥様がニュースで観たぞと胸張ったのへ、
そういうニュースは知らなんだと、今年はまださほど重装備してないコート姿の旦那様、
出迎えに玄関まで出てきた奥方の溌剌とした笑顔に笑い返しつつも
リビングで手に提げてた荷を降ろすとふい〜っとため息。
クライアントを始めとするあちこちからも、暑いの寒いのという情報は入るものの、
そんな言われてもずんと前から準備していたイベントや企画はそのまま進行させるしかなく。
昨年は野菜の不作で鍋企画が厳しかったのが反転し、
この冬は値崩れしそうなほど白菜が穫れまくっているらしいので
パック料金下がったところへ予約客が流れかねないとか、
気温の乱高下のせいで、油断した海外からの観光客が寒がったり暑がったり
添乗員ごと振り回されているという話を現場から聞いていて、
企画進行の段階で交渉に駆け回って苦労したことがあっさり薙ぎ払われるから
お天気って最強だよなと、企画部のホープ様がしかめっ面でぼやいてて。

 「例のチョコレート関係のイベントも、
  会場の熱気が例年以上なので冷房入れた方がよさそうなんて声が上がってるほどでな。」
 「あー、それはあるかもな。」

コートやスーツを引っぺがした代わりにと、缶ビールを手渡した奥方、
懐に抱え込んだでっかいコートと共にクロゼットのある寝室へと駆けてゆく。
用意されてあったトレーナーの上下というリラックススタイルに着替えたご亭主、
かしッとプルトップを開け、まずはの一口を喉へ流し込み、
うんうん、これが寒いと感じないんだ、やっぱこの冬って妙なんだろななんて
感慨深くなっていたものの、
自分が持ち帰った紙袋の向こう、ソファーの足元にミカン箱サイズの段ボール箱が見えて。

 「…お。」

食いしん坊な奥方のおやつBOXはテレビラックの脇にある。
そちらもスナック菓子やら満載なれど、こちらはラッピングされた包みが満載で、

 「あ、そうそう、フライングで30越したぞvv」

戻ってきた奥様が、にゃは〜と笑って言ったのは、
旦那の視線を見やってのことなら今年のバレンタインデーの途中経過の話だろう。
当日は明日だが、PC教室の生徒さんには明日は会えない子もいるし、
ルフィがコーチを受け持ってるサッカーチームのお母さん方とか、
明日は定休日なデイリーストアのパートのおねいさんとか、
今日のうちに はいほいと下さったらしく。

 「…30ねぇ。」

芸能人でもないのにまあ、結構な数だなと、ちょっと不貞腐れる武骨なご亭主。
モテようで負けたとかいう方向ではなく、
そうまで多くから好かれておいでの奥様なの、素直に喜べない嫉妬心からの反骨で。

「わ、ゾロのはさすが高級そうなチョコ一杯だな。」

そんな気持ちも知らないままか、
旦那が持って帰った紙袋を覗き込み、無邪気に喜ぶ奥方なのへ、
まあいっかともう一度、胸の内にてため息ついて、

 「試食品だとは思わねぇのか?」
 「え〜。ホワイトデーのをこないだ持って帰ったとこじゃんか。」

明日が本番のバレンタインの方の試食なんてしたって、
現品今から取り寄せらんねえじゃんと、
何かと前倒しな都合もようようご存知の奥様があっけらかんと笑ったが、

 「本命っぽいのは俺がお返し買っとくから、ちゃんと返すんだぞ?」

そうと言い置き、どんなのあるかなと楽しそうに品定め。
嫉妬も何もないものかと、それもまた寂しいかななんて思う旦那様だが、
さにあらん

 『いつもゾロがお世話になってます。
  頂いたチョコは美味しくいただきました。ありがとうございました。』

いかにも幼い字と言い回しのメッセージカードをつけて
本人は食べてませんよ、
同居人or 知り合いらしい子が平らげましたよというアピールを必ずしておく辺り…。
良く気の付く奥様というよりも、
ちょっかい出しても無駄だからねという牽制のつもり満々ですよ、旦那様。(笑)






  〜Fine〜  19.02.13.





 *ちょっとお久の新婚さんを覗き見。
  バレンタインデーともなれば、山ほどのチョコが降りそそぐご両人でしょうが、
  お互い、こんな心持ちでいるらしいですvv




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