■蒼夏の螺旋 3

□今年は特別?
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このところ夏は酷暑が続いていて、そういう年は冬が極寒になるとか聞いたことがある。
特に根拠はない話かと思ってたら、
余りの厚さで海水温が異常値のままだったりするのが影響して、
まだずんと先に届くはずのシベリアからの寒気が早々と到着してしまうからとかどうとか、

 『気象予報士の兄ちゃんが言ってた。』

と、ルフィが胸張って話していたことがあって。
それを社での茶話に持ち出したら、

 『あら、係長ったらお惚気ですかvv』

誰彼が言ってた話なんて滅多に持ち出さないのに、奥さんのは別枠なんですねなんて、
出張の多い部署の手配関連を 毎度そつなくこなす事務方の女性社員に冷やかされた。
気さくな性分の実はママ社員で、知らぬ間に直接line交換していたらしくて、
誕生日のプレゼントの買い物とか、休みの日のランチとか一緒してもいたらしい。
随分と後で知って、本当か?と聞いたところ、
これって浮気になるのか?とルフィ本人が楽しそうに笑ってたのが
今でも思い出し笑いを誘うネタだったりする。
勿論、また何を言われるか判らないので社では言わないが。

「ぞろ〜。」

その奥方が、先に食べ終えたトーストの皿を流しへ下げた帰りに広告らしいチラシを持って来たのが、
いきなりの厳寒から大きく反転し、いっきに4月並みへと気温上昇したとある朝のこと。
何か買って帰ってというリクエストでもあるのかと思ったら ぺらんと裏返し、
今時珍しく白紙だったほうを表にしてから、

「今日はバレンタインデーだろ?
 貰ったチョコ、名前ちゃんと覚えとけよ? 何ならメモしろ。」
「いや、メモ用紙くらい社にあるが。」

何でまた わざわざ?とゾロが首をかしげておれば、
一丁前に“おいおい”と言いたげな貌をする。
やはり一丁前に人差し指を立てて振り回すと、

「イベントに詳しい奴が何言ってるかな。今年はホワイトデーがズレんだよ。」
「…あ、そうだったな。」

例年だと2月が28日間なせいで2月と3月は曜日がぴったり同じなのだが、
閏年は例外で、一日ズレるため、

「今年の3月14日は土曜だ。休みになっちまうから前日に配らんといかんだろーが?」

皆で食べてねという
連名でのお徳用アソート詰め合わせによる義理チョコへのお返しは
同じような格好で構わないだろけれど。
頑張って本命チョコばりのいいのをくれた子へは、
頑張った心根の中にエイっと勇気出した踏ん張りもあろうから。
恥かかせるのは良くないぞ、でも不倫は許さんということで、
他の妻帯者がそうして虫よけにしているという必殺技、
お気持ちは嬉しいがウチにはこぉんなに気の利く良妻がいるもんでと、
贈答への義理も果たすし釘を刺しもする特殊効果付き、
“奥様が買って来たお返しを渡す”という作戦に必要な、
本命もどきチョコを頂いたお人の名を記しておくの、忘れないようにと念を押しに来たらしい。

 「あ、もちろん俺も美味しいの作るからな。」

スイスのいいチョコをサンジが送って来たからさ、
それ使ってブラウニーとオペラ作ってやるぞ、甘くない方がいいんだろ?と、
季節外れのひまわりみたいに にっかと笑った小さな奥方。
あの“お母さま”の名前が出たのは正直頂けなかったけれど、
むくつけき大の男がムッと一瞬 眉をしかめたのが可笑しかったか、
くつくつ笑ったそのまま、腕を開いて首っ玉へと抱き着いてくる。

 「何だよー、やきもちか?」
 「…そんなんじゃあねぇよ。」

本来の聖バレンタインデーは、
チョコを介しての告白ごっこなんかじゃあなく、
家族やパートナーへの愛を謳う日。
それを一足早く 正しく実行した母君なのが面白くなかったの、
あっさり見抜かれたのが面映ゆかったが、
あっけらかんといなされ、ぎゅむと抱き着かれた小さな奥方の真っ直ぐさに、
うん確かに大人げないと思い知る。
一足早い春めき以上の暖かさにあっさりとにやけつつ、
間近になった丸いおでこへ小さくキスを落とし、
結局は やに下がってしまったご亭主だった春の朝だった。



  〜Fine〜  20.02.14.





 *あああ、久々すぎて勘が戻りません。
  せっかくの聖バレンタインデーくらい何か書こうと思ったのですが、
  ちょ〜っと癖のある設定を選んでしまったかなぁ?
  何年経とうがラブラブの若夫婦です。(姑付き) 笑





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