■天上の海・掌中の星 4

□春も うららに…
2ページ/2ページ


こちらの眸を眩ます目的からか、
ぬらぬらとした光を帯びた隙間が
カッと一気に閃いて。
勢いよく瞬いたと同時、
何かの気配も飛び出して来たものの。
“それ”が振り上げた
重々しい牙と顎とが、
空を翔けつつ風を引っ掻いた籟の唸り、
ぎぃいんという
重々しい金属音が弾いて蹴飛ばす。
先程 相手が見せた禍々しい閃光と、
凶悪さでは似た部類。
だがだが、質と強さは段違いであり、

  きしゃぁあぁっっ!!

さくと容赦なく刻まれた牙が宙を飛び、
どこかへ落ちるまでもなく、
消し炭のようにほろほろと崩れながら
あっと言う間に掻き消えてしまい、

 「糧で腹ァ膨らましたところで、
  この次界にゃあ居座れねぇよ。」

雄々しい腕が
胸元へと回される恰好で
頼もしい楯となり、
ぐいと引き寄せられた懐ろは、
そのまま彼自身が
背後を守り切る頑丈な鎧となろう、
それは頼もしいルフィ専属の守護、
破邪の君の登場であり。

 「俺も腹減ったぞ、ゾロ。」

 「おうよ。
  家へ帰ったら
  ぷりっぷりの
  フランクフルト挟んだ
  ホッドドッグが
  山ほど待っとるぞ。」

 「やたっ!」

懐ろではしゃぐ坊やとの、
それは朗らかな会話と裏腹。
がっつりと雄々しい
筋骨をまとわせた腰をぐんと落とし、
手元だけで大きくぶん回した大太刀を、
ぐるんと逆手に握り直すと。
やや落とし気味になってた視線、
そこからぐいと睨み上げさせ、
蛇に似た胴に、
やや歪んでいびつな
顎だけが座っていた妖異を
豪の視線だけで
凍りつかせての縫い止めて、

 「てめぇの居場所へ帰るんだな。」

地を這うほどの位置から、
片腕だけでの一閃、
相手の頭上へ目がけ、
駆け上がった重い太刀筋が、
ざくりと咬んでのそのまま食い込み、
黒々としていた総身を
散り散りに引き裂く容赦のなさよ。

  ぎしゃぁあ、ぎゃあぁ………っっ!!

切り裂かれたことで力も衰え、
この道を満たしていた
禍々しい圧が薄れたそのまま、
それと入れ替わりつつある
こちらの大気に侵食されたか。
まるで黒々と焼け焦げた紙のように、
呆気ないほどほろほろと崩れゆく身は、
瞬く間にも消え失せてしまい。
時折 甘い風が吹くだけの、
何事もなかったかのような佇まい、
のどかな春の陽に照らされた
一本道の風景が、
当たり前の日常の
一角として戻ってくる。

 なあなあ、ゾロ。
 んん?

得物の太刀を宙へと消した破邪殿、
ついでに、
まとってたままだったエプロンも
ごそもそと外している手へ
“なあなあ”と懐いた坊やが訊いたのが、

 「春先も妖異ってのは多いんか?」

 「どうだろうな。
  冬場は人も出歩かねぇから、
  見かけねぇってだけじゃねぇかな。」

思うところをまずはと答えてから、

 「そんなことを訊くってことは、
  他でも何か見かけたんだな、お前。」

いやあの・うっと、
別に俺でも封印出来そかなとか
思ったってワケではなくてだな、と。
自分の手首あたりを
もう一方の手で掴んで
グリグリ回して見せるのが、
もしかして例の
何とかいう楯を出す時の
ポージングなんじゃあと。
あらぬ方を向いて、
鳴らない口笛を
ふーふー・ひゅーひゅーと
吹く真似をする坊ちゃんへ、
疑惑を高めはしたものの、

 「……まあ、いっか。」

細かい探査は
どうせ俺には出来んのだしと、
どっかの聖封さんへ丸投げすることで
あっさり吹っ切ったらしく。

 さあ帰るぞ
 おーvv

ルフィのウキウキ弾んだ声に重なり、
どこからかウグイスの声が長閑に届いた、
それはそれは暖かな
昼下がりだったそうな。






     〜Fine〜  14.03.29.







後日、高校周辺を探査した挙句、
結構でっかい次界虚窩を見つけた
サンジさんから。
あの坊主には
探査弊咒を貼りつけとけと、
どんな騒動に巻き込まれたか、
手入れの良いはずな金髪を
随分とほつれさせ、
ダークスーツを
あちこち破かれた恰好で、
良いか判ったなっと、
ややお怒りの表情のまま
怒鳴り込んで来たそうで。
……相当に
大変だったんだね、うんうん。

 「なあなあ、
  キュウゾウんチの回りは
  桜咲いてんのか?」

 【 にゃうみゃんvv】

 「そかー、まだ半分ほどか。
  でもそっから満開までは早いぞ?」

 【 みゃみゃみゃう、にぃvv】

 「うんうん、
  クロや島田さんたちと花見だな♪」

 “あああ、
  どうやって猫語を会得したのか、
  教えてくんないかなぁ。”

   七郎次さん、それは無理だ。(苦笑)



前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ