■大川の向こう 2

□夏のお隣り
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気象が異常という感があるのは何もここ最近の話じゃあないのだが、
エルニーニョとやらが終わったというに、まだ海水温がおかしいものか、
今年の日本の梅雨は
随分と遅れてやって来ていまだに居座る尻の重さが色んな筋から恨まれておいで。
梅雨入り前は途轍もなく暑い日が唐突にやってきて、
運動会やら夏の大会への予選などなどに出場中のお子たちを餌食にし、
ああまた今年も熱中症に注意せねばと皆さま各位の胸へ深々と刻み込んでったはずが、

 「今日も雨だ。」

ぷく―と柔らかそうな頬を膨らませ、
今年のライダーの雄姿がプリントされた雨合羽を羽織った坊やが
恨めしそうに空を見やる。
小学生になってしまうと
メーカーさんにもよるがサイズが厳しいはずのヒーロー変身もののこういうグッズ、
何でかは言わぬが(笑) 余裕で着られるおチビさん。
だが、今はそれもあんまり嬉しくはないようで、
大さすがにチビなことがプライドへ障るお年頃になったのかというと
全然の全くそういう意味からじゃあなくて。

 「なあなあゾロ、来週のお終いの花火、あんのかなぁ。」

来週のお終いというのは“来週末”のこと。
大きな川の中州の里では、
川沿いのあちこち、河川敷に仕掛けを持ち込んで催される花火のほとんどを
居ながらという特等席で見物できるのが夏の売りで。
その先陣となる大町の花火大会が、来週に迫っているのだが、
小学生たちには夏休みの開催と同時の嬉しい花火が、
このところの大水まがいな大雨のせいで準備さえままならないとの声も飛び交い、
街には告知のポスターさえ貼り出されてない緊急事態。
地震もおっかないけど大水だって恐ろしい災害で、
川沿いの他の地域では土手が危うく決壊しかかったという声も聞くし、
大人の大変な様子はようよう判る。
この里も、そんなまで降ったら大町まで避難しなきゃあならないと言われているし、
今までは大丈夫だったからなんてアテにならない昨今なので、
学校でも避難訓練で授業中にベルが鳴って、そのまま丘の上までみんなで歩いてったりもしたよと、
その時は何でか嬉しそうに教えてくれた坊やだったれど。
大変だってのは重々承知でいるらしく。
それでもあのねと、唇歪ませる様子が何とも可愛い。
こんなこと思うのは子供の我儘と判ってる、
もっと小さい子が夜中に蒸し暑い体育館で眠れない晩を過ごしたお話も聞いたし、
自分ちの父の持ち船も 土地勘があることを生かしてのこと、
天気図が怪しい気配を示すたび、巡回にと大きな川のあちこちへ船と人を回し、
ボランティアで夜通しの見回りをしてもいる。
遊びに入ろう花火大会は二の次にされてもしょうがないと、判ってはいるのだ坊やだとて。

  けどネ、でもでもだって

大空にパッと開く光の花は、そりゃあ大きいしきれいだし。
みんなして同じものへ視線を奪われ、凄いねぇと心奪われ見入るのはそれ自体が何かすごいことで。
怖いものとか恐ろしいものへじゃあない、
素敵なものへと視線を奪われる至高の瞬間が、坊やにはたまらなく嬉しいから、
そんな花火だから観たいのになぁと。
そういう順番で、もしも中止になったら残念だと小さな胸を傷めておいで。
ただのお遊び感覚で言っているのじゃあないってこと、
こちらもまた判っておいでの、言葉の少ないお兄ちゃんが、

 「大丈夫だ。」

傘の縁が重なってるところから垂れて来る水も何のそのと腕伸ばし、
肘から下を濡らしつつも坊やの頭をぽんとなでてやると、

 「ルフィは晴れッ子だから、ちゃんと晴れる。」

今までも坊やのお気に入りの行事は、
どれほど大荒れの天候でも何でか上手く晴れ間が差した。
直前だけが晴れても準備が要るものは開催不可能となっても仕方ないが、
それならならで周囲の人らが代替の何かを設けてあやしたもので。

 “それに…。”

何でかという理屈まではゾロの側でも知らないことながら、
やはり天候がらみで妙に周囲からアテにされている姉が

 『来週の週末は晴れそうだから、ルフィに言っといて。』

そんな風に言ってもいたし。
勿論というと順番がおかしいが、
花火を担当している業者の大人からもそれとなく
どんなもんかねなんて さりげに訊かれており、
後日こっそり菓子折りが届くほど あやかられているらしく。
なのでという順番なのはちょっと癪ながら、
それでも確たることとして
坊やへと励ますように言ってやっておいでの小さな兄様。
今日のお空は生憎と曇天だけれど、
来週末のお空には、そりゃあ綺麗な光のお花が咲きますように。



  〜Fine〜  19.07.14.





 *なぁんてお話を書いてみましたが、何と関東地方も7月中は晴天見込めないそうですねぇ。
  まま、このお話はフィクションですので良しなにということで。
  あんなに暑くなってもう夏かと慌てさせといて、この仕打ちとは。
  このまま冷夏になったらどうしてくれようか。また野菜が値上がるのかなぁ…。

 *観測史上最遅の梅雨が絶賛のたうち中ななか、
  古来より馬鹿が引くと言われている夏風邪を拾いました。
  喉というか気管がムズムズっとしては止まらない咳が続くのがしんどいです。
  肺活量少ないから、くさめも3回以上続くと死にそうになるのに…。
  相変わらず首も痛いしね。
  そんな中、懸賞で当たった白髪染めトリートメントがささやかな癒しです。
  ウチの父方が物凄い白髪出る家系でして、
  従姉妹なんて20代に入ったばっかでもう出てたしと諦めてたら…って
  全然関係ない話ですな、これも風邪のせいね。(おいおい)
  





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