残夏のころ 2

□何とも微妙
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今年の聖バレンタインデーは、何と日曜日なんだそうで。
それでなくとも某コロナ禍で五輪をはじめとする各種イベントは軒並み中止か延期。
学校は休学が続き、新入生も卒業年度生も
おめでたいはずの式典や学生生活最後の大会が取りやめとなって涙をのんだ哀しい一年となり。
てんやわんやを通り過ぎ、自粛慣れした結果か薄くどんよりしている日本の春隣り。
今年の節分は百ン年ぶりに2月2日ですよという触れ込みに、
ああそうかもう2月なんだなと思ったその後で、
やっとその次のイベントに気が付いたのは もーりんさんがおばさんだからか。

 「そっか、今年は日曜なんか。」

この頃合いの風物詩、いつの間にか日本でも定番となり、
チョコレート消費の一年のうちの半分強を売り上げているとまで発展した女の子達のイベント、
聖バレンタインデーがそろそろやって来るのだが。
今年の暦では、何と当日の14日は日曜日だったりするものだから、

「…少なくとも勤め人のお嬢さん方は、義理チョコ渡さなくて済むと胸をなでおろしてんじゃね?」
「どうですかね。気の回る子は前日や前々日に配るらしいですし。」
「それって脂ぎった上司に強要されてのことなんだろ? 立派なパワハラじゃねぇか。」

お返しだって、いかにも気が利く男だろう俺っていう押し付けなんだろうしと、
なかなか穿ったことを言う店長だが、
その前に、リモートワークな職場の人は皆して出社してないんで
渡しようがありませんが…と、場外からつい囁いてみたりして。(笑)
まま、形骸化して久しいオフィスの事情はどうでもいい。
そういうところの御用達はビジネス街付近の百貨店だろうから、
住宅街の直販スーパーには縁のないお話だと追い払うように、精悍なお顔の前にて手を振って見せ、

 「期末考査とかぶる頃合いかぁ。
  大学受験組に思う相手がいるよなクチは、ウチみたいな店でもこそッと買うかも知れねぇな。」

今時の高校生は実はなかなかに微妙な世代で。
こういうキャピキャピしたこと、
遊びじゃんイベントじゃんと朗らかに豪語しつつ、
でも実は、誰にも言わぬまま真摯な本気を秘めてたりもする辺りが、

 「昔の若いのが、純情さから可愛げなく反抗的だったのとは全然違うんだねぇ。」
 「冷やかされての誤魔化しが上手になったところで、
  傷つきやすいお年頃なのは変わらんのでしょうから。」

真っ赤なパッケージの小箱を、イベント用の売り場、催事の“島”に補充しつつ、
自分たちのは遠い過去の話だねぇなんて口調で語らっておいでの、
赤毛無精ひげの店長と、素晴らしく長身でちょっといかつく頼もしい副店長。
高校生バイトが入る時間帯を前に、食料品棟の補充を担当しておいで。
直販スーパー“レッドクリフ”は地域に密着したお店というコンセプトを大事にし、
様々な季節の行事にも一応は品ぞろえを寄せており。
お正月や大寒と来て、二月に入ればまずはの節分をこなし、
次はと来るのがチョコレイトが飛び交う聖バレンタインデー。

 「お手製のキットもあるにはあるがそっちはあんまり出てねぇらしいな。」
 「まあ、そこまで凝る人はそれこそこういうところでは揃えませんて。」

既製品のチョコを湯煎で溶かして…というならならで、webにレシピがあったりするそうなので、
尚のこと、こういう小さな店舗では揃えまい。
幼稚園あたりに通う女の子が
お母さんとお遊戯半分に作ってみたくてという辺りが買ってくらしいですぜと、
ごっついガタイな割に細かく目の利く副店長が進言し、

 「あとは……。」

補充用の台車のアームに手を掛けたまま、ちらと、
棚の壁の向こう、本来の菓子類の配置辺りを眺めやり、

 「どこぞの食いしん坊小僧が、特別仕様のが出るから楽しみだと喜んでるくらいですかね。」
 「ははは、そりゃあ例年のこったがな。」

既製品でもパッケージがプレゼント仕様へと変わっていたり、
何だったら手作りパックと銘打って、
板チョコやら粒チョコやらがちょっとお値打ちになって詰め合わせになってたり。
そういうのを特設コーナーに並べたところ、
女子ではなかろう、むしろ何だかんだ言っても結構もらう側だろに、
そういうのは当てにせずの単なる食い気から
デラックスなのを喜んで買っていたりする誰かさんらしく。

 「そろそろ そういう色気なしからは卒業すんじゃね?」
 「どうですっかねぇ。」

むしろ、柄でないところはお揃いかもしれないもう一方の誰かさんが、
差し入れと誤魔化して渡せぬものかなんて、
自宅からは微妙に距離がある此処で買ってくんじゃなかろうか。
いやいやそれはなかろうよ、あいつの通ってる高校は此処の近所らしいから、
そういう連中に目撃される危険性大だしよと。
微妙に偏った情報通の大人二人が、わいのわいのと特設チョコ売り場の前で沸いているものだから。
今から勤務のバイトくんらが通りがかっては、
こういう催事にはしゃぐとかウチの幹部って結構可愛いと
女子の皆さんがキャピキャピ lineを送り合っているとはご存知あんめぇ、
2月某日の風景でございました。




  〜Fine〜  21.02.09.





 *この設定は 2018年の春ぶりです。
  サンジさんの初登場はいつだっけとか、(「GWを前にして」でした)
  ついつい過去話を読み返してしまいましたよ。
  で、結局肝心のルフィさんもゾロさんも出て来ませんでした、すいません。
  年齢が近くなったせいか、
  大人キャラが野次馬根性出したり世話焼いたりするお話の方が楽しくてvv(こらこら)




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