■天上の海・掌中の星 5

□凍るような
2ページ/2ページ




最初の一閃は利いたものの、
実はそれへと添わせた二閃目が何かしらの圧に相殺されている。
尋常ではない素早さでのそれが打ち消されたことが、
珍しくもこの破壊の封滅守護に間合いを取らせていると言ってよく。

 人をたぶらかしてきたからこそ、相手の呼吸を読める手合いかも知れぬ

間合いや呼吸というのはなかなかに曲者で、
馬力や巧みさ、力量にあまりに格差のある相手でも
それを巧妙に操れば 倒せないまでも躱すことは出来る。
粘り強さをやしなえば、隙を待つという策も繰り出せる。
多少は蓄積があるらしい相手、
軽んじると足元を掬われもするいやらしい相手のようだなと、
天衣無縫な構えか、だらりと下ろしていた太刀の切っ先、
じゃきりという鍔鳴りがしたほど気を入れ直して握りしめ。
冥界からの使いのような相手に向けて、
打ち漏らしのないよう、一気に押しつぶすべく、
その切っ先一点へ覇気をぎちぎちと尖らせんとしかかったものの、

 「たあぁあぁぁぁ…っ!!」

  「「はい?」」

結界障壁に覆われ、一般の方々からは隔てられているはずな、
この“亜空”という異空間にて。
ゾロもサンジもあずかり知らぬ、いきなり盛り上がった圧があり、
それが大きく伸びをしたついでのような勢いで、
ぱんっと問題の妖異を弾き飛ばしてしまったから恐ろしく。
飛ばした威力というよりも
それで撥ねられた先に強固な壁があったので、存外弱かった鎧があっさり砕け
中身が蒸散してしまったという順番らしかったものの、

 “もしかして…。”

凛々しき威相にての太刀の構えも解かぬまま。
おいおいおいおいとしょっぱそうな顔になり、
雄々しい肩の上、ゆぅっくりと首顎を回して
後方へ庇われている存在を見やったのがゾロならば、

 「お前はなぁ〜〜〜。」

本来だったならレディやマドモアゼルにしか発揮したくはない騎士道精神繰り出して、
この身を楯にしてでもと囲ってやってたこっちの立場をどうしてくれると、
そちらは判りやすくもおっかないご面相となり、
ぎりりと歯ぎしりしかかったサンジの懐ろにて。

 「はあ、やったやった♪」

自身はすっきりしたらしく
うんうんと至極満足との笑みを浮かべ、両手のこぶしを握ったのが、
彼らからまずはと守られていたはずのルフィだったりし。
握られた拳が淡く光る残滓をまとわせており、

「てめ、あれ使ったな、ごろあぁ#」
「わっ、なんだよサンジ。」

怒られる筋合いじゃないはずと、
今度はあまりに至近から発した怒気という威嚇へ
唐突が過ぎてか わあと驚くところが、事情が判ってないらしい素朴さでもあり。
まとまりの悪い前髪の下、
キョトンと見開かれたドングリ目の無邪気さへ、

「…まあ、しゃあねぇか。」

大方 “早く帰ろう、お腹空いたぞ”と、
そんな想いからついつい力んでしまって
段取りも織り込みもないままの勢いのみにて
あっさり畳んでしまったに過ぎないのだろうが。
もしかして万が一にも、
自覚はないらしいが相手の技量まで読めてのことなら、
そういうのの感知力がゾロを越すのかもしれずで、

 “そこは物差しが違うだろう#”

それこそ、相手の呼吸や癖を把握したその上で
どう覆いかぶさるか、
どう刀の切っ先釣り出させて身をがら空きにさせるかを織りなす妙技がだなと、
口下手さんが何か言いかかるもの遮って、

「帰ろうよぉ。俺、腹ぁ減ったし。」

せっかくサンジが要るからパンケーキ食いたいな。ば〜か、俺は帰るぞ。
あ、そんなのなしだぞっ! 知らねぇよ…と、
ホロホロほどけてきた結界が薄れてゆくのを感じ、
このままだとご近所迷惑な罵り合いでしかなくなろう
連れ二人のやり取りへ終止符を打たせるべく、
 
「ルフィ、こないだ来てた
 おババ様からのビデオレターとかいうの観せてやったらどうだ?」
「あ…。」
「お前がおババ様言うな、お前が#」

あの麗しき美魔女様、ハンコックさんから
愛しいお孫さんへvvと送られた動画を観たかったら…と持ってけと、
助言してやるあたりが甘い、
寒い寒い朝っぱらから、相変わらずにお元気な皆様だったようでございます。




  〜Fine〜  17.01.25.






 *妙な締め方でごめんなさい。
  浄天仙聖という神格に連なる存在なればこそ、
  その身に宿すことが出来た聖なる翼の“聖護翅翼”…なんてな
  仰々しい紹介で登場したはずのスペックでしたが、
  初出『黒の鳳凰 LAST DESTINY 終
  今やルフィさんの防犯用のツール扱いでございます。
  こういう展開にするから、
  シリアスなお話には途轍もない相手を考えにゃあならなくなるってのにもう。


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ