■天上の海・掌中の星 5

□夏の夜更けのナイショのあのね?
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古来よりというのも何だが、本来は夜というのは活動しちゃあいけない時間帯。
何と言っても暗いので、夜行性の危険がいっぱい潜んでいるし、
そもそも手元足元が暗いから躓いたりしかねず行動もしづらい。
灯火もまた高価だし何より火事になる危険もあるなどなど、
陽が落ちれば何もできないからそのまま寝てしまえと言うのが自然なことだったもので。
ところがそれへお祭りが絡むと
夜通しで準備するのも当たり前、何なら社に籠って祈祷を続ける行などもあるし、
宵宮という言い回しも当たり前のそれである。
大晦日など長く起きていればいるほど長生き出来るとされ、
子供も夜更かしを奨励されていたほどで。
夏は夏で盂蘭盆会という「お盆」に絡むあれこれとしてのお祭りが多々あり、
寝苦しいから夜更けまで起きている人も多いとあってそれをつり出すためか、
それとも単に農閑期だからか、輪になって踊ったり縁日を設けたり、花火を上げる賑やかなものまで派生して
夏の夜もなかなかに華やかになっているが。
花火大会といや近年減りつつあるそうで、
資金繰りが厳しいためだそうだが、花火自体よりも警備費がぐんぐん上がってのことというのがちょっと意外。
夜中に出て来る人の数が増えたか、日本人のお行儀が悪くなったか、
揉め事やぎゅうぎゅう詰めになる街路などなど、
専門家に誘導整備してもらわにゃあ惨事になりかねないとのこと。
子供らにとって
日頃と違い夜更かしして良いよと言われる、外で遊んでもいいよと許される夏祭りの晩なぞ
その特別感からワクワクしてしまおう冒険の時間帯でもあったのだろうが、
最近はどうなんでしょうかね。塾通いで陽が落ちても外出中なんてザラだろし、
余程に風光明媚な土地でもない限り、町は街灯などがあって明るいし。
最近は山に食べ物がないせいでという順番でサルやクマなどがこんにちはしているが、
基本、人が棲む住宅街に猛獣は出ないから、悪い人間への用心しか要らない。(それもどうかと…)


さて、繁華街の人集め目的な派手な祭りにも、
自治会主催や、檀家や氏子主体の地域に根付いたお祭りにも
ここ数日は縁がないらしいとある住宅街の一角にて。
住人たちはもう就寝済みか、一番お元気なお子様のすうすうという寝息が聞こえるほどに静かなお宅。
眠る必要はないのだが、相方が寝ているので暇だと、
自室代わりの兄上の私室にて寝台に一応は横になっていた頼もしいお兄さん。
ふと、夜陰の静けさの中に何かしらの気配を嗅いで、切れ長な双眸をぱちりと開く。
さほどに悪質面妖な気配じゃあないが、
いきなり出現したのと、それがこの家の唯一の住人である坊ちゃんの部屋だったための警戒で。
2階にあたるそこを天上越しに見上げた反応はなかなかのもの。
さすがは天上界屈指の剣豪“破邪”たる資質
…とまで言うのは大仰だったというのは おいおい判る その二階では。

 「……。」

主な調度はベッドと書きもの机とクロゼット。
あとはゲーム機やらテレビやが整理棚に置かれ、
雑貨やバッグやら柔道着やらがところどころ床にまで散らばっているという
いかにもお元気そうな子供部屋。
今は住人も就寝状態で、ベランダに出る掃き出し窓にはカーテンも引かれてある暗がりの中だが、
その一角に何かがこそりとうごめいた。
こそごそと、あんまり息をひそめているよな態度ではないままに
夏向きのラグを敷いたところまでちょこちょこという小刻みな足取りで出て来ると、

 「…♪」

ちょっぴり楽しそうな喜色を見せつつたたたッと助走付きで駆け出して、
エイッと跳ねたが力及ばず、
目標のベッドの端っこに やっと手がかかったのを うんしょうんしょと這い上がる。
そうやって登頂成功した寝台の上、なかなかの寝相で熟睡中の部屋の主へと目がけ、
ぽ〜んと飛び上がって乗っかかったが、あまり負荷は足りてなく。
小さなお手々でたしたしと頬を叩いてみたり、胸板の上で飛び跳ねてみたり
夢魔にしちゃあ無邪気な暴れっぷりをやらかしていたら、そこはさすがに届いたか、

 「何だよ、モゾモゾと」

目許を擦って起きかけた、まとまりの悪い黒髪の少年。
自分の胸板に乗っかり、揃えた前脚の先に顎を載せ、
キャラメル色の小さな綿毛猫がこっちを覗き込んでいるのと目が合って。

 「何だ、キュウゾウかぁ。」

にゃおぅとご機嫌そうな声が返って来たのへと、
よしよし頭を撫でてから、その手がずるりと落っこちて。

 「………。」
 「判った起きる、」
 「刃はご法度だ、ごら。」

ちょっとズボラしましたね。
起こしたのに再び寝入るルフィさんだったのへ
むっと来た久蔵ちゃんがひゅっと瞬時の転変を見せ、
綿毛は同じだけれど、双刀背負ったお兄さんへ姿を変え、
無言のままながら背中の刀を抜きかかったため。
さすがに殺気で目を覚ましたルフィだったところへ、
そこまでやるか ごらぁとばかり、保護者の剣豪さんが壁を抜ける反則技で駆け付けた次第。

 「……。」
 「何だよごら、やんのか?」

なかなかに真剣本気の殺気をまとった眼差しをぶつけ合いつつ
次の瞬間には二人ともが姿を消したが、

 《寝ない人には構わないだろうが、坊ちゃんにはとばっちりだよねぇ。》
 「あ。クロか?」

姿は見えねど誰かの声がして。
そっちにも心当たりのあるルフィさん、
明かりはともしてないが何かしらの明るみはあってのこと
うっすら目は利く辺りをきょろきょろと見回すと、

 《まぁま、まずは見物に行こうかね。》

そんな返事とともに体がふわりと浮き上がる。
最初に現れた綿毛猫、転じて痩躯の双刀使いの青年もだが、
こちらのクロというのも ルフィ少年とは人には見えない“妖かし”関わりの知己であり。
本体は二階家と同じほども大きな巨躯をした、
猫というより犬はキツネのような顔つきの ふかふかした毛並みも豊かな四肢躯の存在で。
周辺の皆様には見えぬ聞こえぬの結界でも張っているものか
屋根の上へ自身も姿を現して、ちいとも暑苦しくはないさらさらした毛並みへ
この家の主人でもある坊やを凭れかからせる。
そんな二人の視野の先では、
片やは屈強な肢体に甚平型の寝間着をまとったいかにも雄々しき和風剣豪と、
もう片やは七彩の小袖に導師の衵という長衣をまとった、ちょっと時代がかった風体の青年剣豪とが、
それぞれの得物を二振りずつ抜き放っての睨み合い、
隙あらば切りかかるぞ・ごらという、揮発性の高い状態で向かい合ってござる。

 「てか、遊びに来たんだろうに何でこうなってんの?」

ゾロの方だって判っていように、何でまたわざわざ刀を抜いてるのかねぇと、
さすがのルフィも呆れて目許を眇めておれば、

 《なに、達人同士の挨拶のようなものだろうよ。》

日頃の生業のやっとぉとは別、腕の立つ相手へ
“久しく逢ってなかったが腕は鈍まらせてはないか?”と聞いているだけだよと、
暢気そうに笑った気配が夜陰に溶けて。
それを合図にしたものか、二人の剣豪が飛び出して、
得物の刃ががっきと噛み合ったものの、

 「そういや、クロの人型ってのはないのか?」

物騒な兄さんたちの、しかも挨拶代わりの喧嘩には関心が薄れたか、
ふいにルフィが凭れた恰好の存在の方へ、くるりんと首を回して訊いている。

 《はい?》

唐突が過ぎてか、丁寧な応じをした大きな大妖狩り殿へ、

「キュウゾウはメインクーンのほかに、あのカッコとか小さい子供のカッコになるじゃんか。
 クロは黒猫かその大きいのだけなんか?」

黒猫の姿はキュウゾウに合わせてかずんと仔猫というなりで、
ちょっと何か飛ばしているよな気がしたらしく、
狭間を埋める姿もあるんじゃあないの?と聞くルフィさんの勘の良さへ、
あーうーと、言葉を濁す気配があったが、

 《貴殿と同じくらいか今のキュウゾウと変わらぬ年頃の姿もないではないが、》
 「うんうん。」
 《特別な結界の中でないと無理なので見せられぬのだ。》

不思議ふしぎな大冒険?参照ですな。(http://www.paw.hi-ho.ne.jp/dino/samu-neko%5Eif-h22.htm)
そういう話をしているのが聞こえたものか、
ひゅんッと風を切っての刃が大きい猫目がけて飛んで来かかり、
前脚の爪でがっしと受け止め、

 《こらこら、ルフィ殿にあたる。》
 「そうはならぬ。」

貴様がしっかり守ろうよというところまで織り込み済みと胸を張る、
なかなか我儘なお兄さんの言いようへ、
破邪さんの方でも呆れたか、中空へ自分の得物を溶かし込み、

 「…まあ何だ。久し振りの客人には違いねぇ。」

顎をしゃくると階下へ降りろとの指示を出す。
何かしらもてなしをするという意味合いだろうが、何とも荒々しいところが彼らしく、

 「このところ見なかったな、忙しかったんか?」

そういや、そっちのシチ母さんは暑いのに弱いんだったよな。
今年も物凄く暑いけど大丈夫だったか?と、
やんちゃ坊主にしちゃあよく覚えていた、彼らの大切な家人の話を振って来るルフィさんといい、
人の和子が夜更けまで出歩くもんだから奇禍も多くて忙しい、
そんな夏場の僅かな暇を縫ってでも逢いに来るだけはあるお友達なようでございます。


 ●おまけ

 「にゃvv」

おお、シチさんの名前に反応したかメインクーンへ戻ってしまったキュウゾウで、
それへ代わって言を紡いだクロさんによれば、

 《主様が見守っておられるので倒れるところまでは行かれぬが、
  夏場は邪気も濃くなるか油断はならぬのでな。》

そうそう、そういえば
勘兵衛さま以下、こちらの顔ぶれが気を遣っているのは
七郎次さんもまた かつては妖異に標的にされていた存在だったから。
とはいえ、感知の力がない分、何でか感性豊かなお人となっており、

 《キュウのやることなすことへ相変わらずじたじたしてなさるよ。》
 「え?」

小さなお手々で蒸しパンを掴み崩しつつ頬張る様とか、
最近はコップを両手で支えられるようになったのでと、
それでもおっかなびっくりでミルクやジュースを飲む様を
萌え崩れてしまわれたりハラハラしたりしつつ見守っていらっしゃるほどにはお元気だ…とのこと。

 「あれまあ。」
 「…元気で何よりだ。」
 「にゃあvv」

お後がよろしいようでvv

 *判る人が限られる話でごめんなさい。
  でも、この合体篇はもーりんも気に入っておりますのであしからずvv



  〜Fine〜  19.08.19.





 *458000hit キリ番リクエスト 『天上の二人で久蔵達と夜遊び(笑)』
  いちもんじ様、お待たせしました。
  忙しいお盆だったので間がかかった上に
  なんか取っ掛かりだけみたいな代物ですが、
  某所の猫さんたちとルフィさんの夏の夜でございます。
  




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