短編
□冥土カフェへようこそ
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電気とオタクの聖地と呼ばれる秋葉原。
その某所にある一件のメイドカフェの前で肩を揃えて突っ立ているのは、
メイド萌えのオタク――では無く、井宿と翼宿の二人だった。
むずむずとした顔の翼宿が店前に立てられている、
ピンク色の可愛い丸文字で書かれたメニュー看板を見やりながら、うんざりした声で言う。
「苺とうさぎさんパフェ、追加料金オプションであ〜ん♥……アカン、俺、絶対、アカン!」
首を横にブンブンと大袈裟に振る翼宿。
そんな彼を井宿がやや困ったように眉を下げながら宥める。
「まぁ、そんなに長居するつもりも無いし、少し我慢するのだ」
「当たり前や!こんな所、長居してたまるか!」
苛つく翼宿の気持ちは判らなくは無い井宿。
女嫌いの彼がメイドカフェに来て、楽しさも寛ぎも無いだろうに。
そう言う、自分も接した事の無い世界にどうしたもんかと井宿は溜息をつく。
大体からして、メイドカフェに行った事が恋人にバレてもしたら……。
『へぇー?破廉恥狐はメイド好きか?ああ?』なんて、ドス黒いオーラをバックに睨んできそうで恐ろしい。
そもそも何故、萌えだのメイドだの興味の無い二人が此処に居るかと言うと、
二人の知人である海外留学生、ピエールがメイドカフェに連れって欲しいと言われたからだった。
ちなみに肝心のピエール本人は只今、アニメグッズの買い物中だ。