短編

□よふかし
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「眠れん」

呟き、つぐみは読みかけの小説本をバサリと雑に放り置き、寝床に寝転がった。
昼間、いつもの如く、翼宿とやいやいと言い合いながら駆けずり回ったお陰で身体は疲れてるというのに、何故か今夜だけはとても寝付きが悪かった。
幾度も手に取り読み返した小説本を捲り、その内脳も目も疲れて眠れたらと思ったがやはり駄目だったようで。
今夜はこのままずっと起きてしまおうか。
諦めたような溜息をつきつつ、つぐみは煙草を一本、唇にはさみ、火を点けた。
吐かれた紫煙が少しだけ開いた窓の方へと漂っていく。
その紫煙を追いかけるようにつぐみが窓を見やると、

「閉めるか……」

よっこいしょ。と歳に合わない呟きを零しながら寝床から上がり立り、窓へと歩んだ。
紅南国らしい生暖かい風が窓の隙間から流れ、つぐみの頬にかかる。
そして、手を窓の戸にかけ風邪引かぬよう閉めようとした時だ。

「まだ起きていたのだ」

「あぁ……あぁ?」

当然現れた声に振り向き、つぐみはムスッとした顔を浮かべた。
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