LONG STORY

□赤い鳥
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ビュンと風を切る。私は人間に群がる巨人の項を削いでいく。
ひとり、またひとりと人間が食われていく。
その中を飛び回り、一体、また一体と巨人を殺していく。
食べるのに夢中な巨人の項を削いで、削いで、削ぎまくって。

気付けば、誰も居なかった。

巨人の血で全身が赤く染まった私がぽつりとその場に立っているだけ。
自分の愛馬も、巨人の下敷きになって死んでいた。

「…嘘、マジか」

ぐっと顔の血を拭う。すると、視界の端に巨人が映る。
そしてそいつと目が合うと、ヤツはドドドッと足音を立てて走り出した。

「きっ、奇行種だああああ!!!」

奇行種…それこそが私の天敵であった。
どういうわけか、私は通常種には見向きもされないのに、奇行種には襲われる。
最初は、通常種のその反応に対して、「こいつら、奇行種なんじゃね?」と思っていた。だが、違った。次に奇行種と遭遇した時、ヤツは私を襲ってきたのだ。
何度か巨人と遭遇して発覚した事実…私は奇行種にのみ、人間として認識される。

「班も壊滅して、馬も無いのに私ひとりでどうしろと!?」

煙弾を打ち上げてからしばらく経つが、援軍の気配は無い。迫り来る奇行種から逃げたとしても、ヤツは走る奇行種。すぐに追い付かれる。また、ここを動いて、別の奇行種に出くわしたら、一対二…確実に私が死んでしまう。

「ぐぬぬ、やるしか」

ブレードを引き抜く。幸い、ガスはまだある。奇行種さえ抑えれば私は死なない。乾いた唇を舐め、気合を入れ直し、砂埃を巻き上げて走って来たそいつに向き合う。

「お前に私が食べれるかい?」

次の瞬間、ブシュッと巨人の項が飛んだ。

「え。…って、ちょっ、ま」

ぐらりと倒れてくる巨人を避けて、巻き上がる砂埃と昇華熱をやり過ごせば、そこにはひとりの兵士が立っていた。緑のローブがばさりと風になびく。

「…てめーひとりか」

舌打ちされ、ギロリと睨み付けられる。それだけで私の背筋がピンと伸びた。
染み付いた敬礼を捧げながら私は「へ、兵士長!?」と声を荒げた。人類最強が、どうしてここに。
すると、彼の背後から馬に乗った援軍の部隊が現れた。

「…申し訳ありません、兵士長。折角、援軍に来ていただいたのに。民間人も班も、壊滅してしまいました」

草原に残された有り様を見て、援軍部隊の顔色が曇る。

「お前ひとりで戦ったのか…」
「はい」
「…怪我は」
「ありません」
「そうか、無事で何よりだ。エルヴィンから撤退命令が出た。街に戻るぞ」
「はっ」

馬に乗る兵士長を見て、私はぴたりと立ち止まる。
忘れていた。私の愛馬は死んでしまったのだ。今、ここに、私を乗せて帰る馬はいない。

「おい、てめーの馬はどうした」
「巨人の下敷きに…。わ、私のことはお構いなくお戻りください。野生化した馬でも拾ってすぐに追いかけますか、らぁ!?」

グッと胸倉を掴まれ、反射的に爪先が伸びる。兵士長の恐ろしい顔を間近に見させられて「ひぃ…!」と小さな悲鳴を漏らす。

「命を粗末にする気か?」
「…は?え、違いますよ?私は本気で…」
「本気で野生化した馬を捕まえる、だと?馬鹿か、てめーは。野生化した馬なんかもう、役に立たねークソ馬だ。そんな馬を捕まえて壁まで戻れると本気で思ってんならてめーは本物の馬鹿だ」

そんなバカバカ言わなくても!苦しさも相まって若干、涙目になってくる。
あぁ、いっそ、「馬だけに?」なんて言って笑いたい気分だ。そんなことを考えていたら本格的に笑いそうになって、私はぐっと顔を下げる。笑っちゃだめだ。笑っちゃだめだ。体がぷるぷると震える。

すると、頭上から舌打ちする音がして、服を離される。すとんと地面に足がつく。笑いも耐え終えたので顔を上げると、兵士長が「乗れ」と後ろを指差した。

「…はい?」

これには援軍の人も目を見開いていた。

「さっさとしろ、グズ。馬が無いなら二人で乗るしかねーだろ。それとも、巨人の餌になりてーか?」
「あ、え…でも…喜んでご一緒させていただきます!」

人類最強に助けられて。
人類最強と、人類最強の愛馬に二人乗りするとは…。
死ぬのか。私、死ぬのか。

「失礼します…」
「おい、しっかり掴まれ、振り落とすぞ」
「……はい」

他の人とじゃダメなのか。てか、潔癖って噂を聞いたことがあるんですけど。死ぬのか。やっぱり私、死ぬのか。

エルヴィン団長と合流してからも、壁の中に戻るまでずっとこのままだった。
本部に着いてから降ろされた私は、首がもげるくらいに何度も何度も頭下げてお礼をした。汚してしまった服(?)について触れようかと思ったが処分するだろうと仮定して、その場から逃げるように走り去る。

あぁ…怖かった。
巨人よりも、奇行種に追いかけ回されるよりも、怖かった。


end

『アカイトリ』の基。
846年のウォール・マリア奪還作戦の話。
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