RPS

□樂
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彼が学校に来なくなる理由…それは、当麻という人に自分の居場所がバレたからである。当麻は彼を追っている警察の人間の一人で、他にも、公安の津田という男がいる。
津田は、これまでたくさんのスペックホルダーを殺害し、その存在を隠蔽してきた。彼は手段を選ばない。ニノマエ君を殺すためなら、なんだってする男だ。
一方、当麻という刑事はSPECの存在を認め、犯罪を犯したスペックホルダーにも法的処置を施してきた。常に道徳から、倫理から外れることはない。

あの時だって、本当はきっと…



私は、婦警に連れられて地下深くに存在する未詳課までやってきた。
エレベーターが壊れているため、ぐるぐると警察の中を回りに回されて階段を下りに下ってやっと辿り着いた。

「入りまーす!」

その掛け声に振り返る女…当麻 紗綾は、ハチミツのボトルに直接口付けて飲んでいた。それだけで私は、胃が痛くなる。いや、もうすでに最初から胃は痛かった。

「当麻さんにご用だそうです」
「私に?」
「それでは張り切って、どうぞ!」

私は婦警に右手をかざし、ゆっくりとその手を横へとスライドさせる。

「!何を…」
「…あれ?私、なんでここに…まぁ、いっか!」

婦警はスキップしながら未詳を出て行く。
私はスッと右手を下ろし、当麻さんに向き合った。彼女は牽制体制に入る。

「記憶を消すSPEC…!」
『私は記憶を消したんじゃない。無かったことにしただけ。私のSPECは、イレイサー。物も人も記憶も、全て無かったことにする能力』
「…ここに何しに来たの。私に何の用?」
『ニノマエジュウイチをご存知ですね?』
「!…私を消しに来たってわけね。そうはさせるかっ!」

手にしていたハチミツの容器を私に向かって投げる。そして拳銃を手にする当麻さんに、私はキャッチしたハチミツの容器を見せる。

「な…!」
『…開封したことを無かったことにしました』
「ハチミツ無限製造機…!」
『当麻さん、不安ならそのままでもいいし、この手に手錠をハメてもいい。だから、私の話を聞いてくれませんか?』

未開封になったハチミツを当麻さんに投げて返す。
彼女は受け取ったハチミツを見回してドンッと音を立ててデスクに置いた。

「…目的は」
『!…やっぱり、ここに来て良かった』

私は、堪らず笑顔を零す。
当麻さんは眉間に皺を寄せ、銃を降ろした。



「何か、飲む?」
『いえ、お構いなく…』

応接間の黒革のソファーに腰掛けて、一息着く。
誰もいない地下のオフィスはとても静かで、当麻さんのボールペンの音だけが微かに響く。彼女は何をメモしているのだろう…。

「名前は?」
『…雨月理央です』
「その制服、ニノマエと同じ高校だよね。ニノマエとはどういう関係なの?」
『同級生です。仲は…良い方だと思ってます。放課後、一緒に遊びに行ったりしてましたから』
「…真面目に聞いてるんだけど?」
『本当のことです。嘘じゃありません』
「…担任の話じゃ、クラスに馴染んでなかったって聞いたけど。彼と仲良くなれたのは、あなたがスペックホルダーだったから?」
『違いますよ。私の話は長くなるので後に回しますが…彼なりの優しさなんです。彼は命を狙われていますから。クラスメイトを巻き込みたくないんですよ』

不器用な人だと私は笑う。
当麻さんは真剣な顔で、私を見た。

「理央ちゃん、私は大真面目に聞いてるんだけど」
『当麻さん、私は大真面目に話してるんですよ』



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