Wisteria

□第三話
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バズーカの件で雨月から預かった伝言を沖田に伝えると、彼はむすっと頬を膨らませて如何にも不服そうな顔をした。そして、雨月が好きに暴れろと言ったのではないかと文句を垂れる。

「お前、そうやってわざと雨月の仕事増やしてるだろ」
「よく言いまさァ。自分だって雨月に書類仕事押し付けてるくせに」
「それはアイツがそれで良いって言ったからだろーが!」

乱闘騒ぎ後、改めて詳しい話を聞く為に雨月を呼び出した。けれど騒ぎの話はそこそこに、雨月の名義で自由に行動していいから自分のやる事なす事に一切干渉しないで欲しいと懇願した。
雨月は、自分が利用される人間であることを理解していた。その上で、利用されることを望んだのだ。

「いくら顔が効いても限度があるんだろ」
「雨月の顔も三度までってことですかィ?一度キレてるから、あと二回はセーフですね」
「雨月が、じゃねえ!上が、だよ!」
「どうだか。自分は御上のお気に入りだって自慢したいだけでしょ。気に食わねぇ…。御上に見放されちまえばいいのに…」

流れゆく窓の景色を眺め、沖田はぽつりと呟いた。土方はそんな彼を横目で見て、ガキだな、と煙草の煙を吐き出す。沖田は、雨月に構ってもらえず、いじけているだけなのだ。

近藤と共に上京してきた彼らには、仲間は居れど、友達はいない。中でも沖田は一番若く、まだまだ遊び盛りの年頃なのに一番隊隊長を勤め、時に重役の相手もこなしている。大人達に囲まれ、大人達に合わせるように背伸びしてきた沖田の目の前に現れた、20歳前後の雨月に、興味を抱かない筈がなかった。
剣の実力があり、身長もさほど高くない雨月に対して仲間意識を持ち、秘密主義な彼のことが知りたい、もっと仲良くなりたいと沖田は思っているのに、雨月は素知らぬ顔である。

「まぁ、何だって構わねえがあまり雨月に苦労かけんなよ。それで雨月の首が飛んだら意味ねえんだからな」
「…何の話だか、さっぱりでさァ」

彼によるバズーカでの破壊行為は、雨月への仕返しでもあり、沖田なりの甘えでもあった。



激務を終えても尚、テレビクルーを連れて市中見回りに出掛けていた土方は、そこで偶然近藤を発見する。彼は河原に大の字で寝転び、あらぬ姿を晒していた。

「近藤局長…?」
「え、近藤局長?あれが真選組の局長、近藤勲さんですか?」
「…って馬鹿!何撮ってんだ!!」

土方はカメラのレンズを封じ、これ以上近藤の醜態を晒させまいとする。

「あっ、ちょ、誰か居ますよ!」
「そんなベタな罠に引っかかるか!」
「本当です、本当ですって!」

そう言われ、渋々視線をクルーの指差す方へ向ける。
真選組の黒い制服を着こなし、左腕に赤い腕章を身に付けた白髪の男…雨月が、近藤の元へ近付いていく。

「…雨月?」
「雨月?え、あの人が特命係の雨月さん?」

カメラが雨月の動きを追う。土方は何故、雨月がここにいるのかと不審に思った。言伝も済んだから部屋に篭って仕事をすると言っていたはずなのに。

すると雨月は、容赦なく近藤の急所を踏みつけた。グシャッと嫌な音と共に近藤が悲鳴を上げて目を覚ます。それを見ていた観衆の男達は全員が股間を押さえて縮こまる。

「ぬおおお…っ!俺の息子が!俺の大事な息子が!!」
「近藤さん、ストーカーってご存知ですか?」
「おふぅ!?」
「特定の人物に付き纏い」
「あふっ!」
「行動の監視、面会、交際の要求などを行う行為は」
「あっ、や、待っ、ぐふぅ!?」
「正称、ストーカーというんですよ」

近藤の股間を幾度と踏み付ける雨月は、蔑むような眼で近藤を見ている。

「日を跨いでも帰ってこない。朝日が昇っても帰ってこない。寝ずに待っていたというのに。局長ともあろう者がストーカー?自分の事を棚に上げて、他人のプライベートに口出しするつもりはありませんが、市民から苦情が入りました。なので、一言言わせて頂きます。恋愛は自由です。人を好きになるのも自由です。ですが、…自由の意味を履き違えるなよ、ゴリラ」
「…は、ぐはぁっ!」

最後に一撃をお見舞いした雨月は、踵を返してその場を立ち去る。近藤は、何でこんな惨めな思いをしなければならないのだと涙を流した。



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