Wisteria

□第八話
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庭の木に逆さに吊るされた万事屋の様子を伺いながら、雨月は山崎の介抱を行なっていた。介抱といっても、ただ布団に寝かせるだけだが神楽のボディーブローを受けたのだ。暫く、目覚めることはない。
雨月は、縁側に腰掛ける近藤と土方に声を掛ける。

「土方さん、もう良いんじゃないですか?銀さんは兎も角、新八君は反省しているようですし、神楽は日に弱い体質なんですから」
「雨月の言う通りだ。いい加減にしないと総悟がSに目覚めるぞ」
「何言ってんだ、あいつはサディスティック星から来た王子だぞ。もう手遅れだ」
「…なら、三人がMに目覚める前に下ろしてあげましょうよ」

縄を解くと、三人はぐったりとした様子で地面に倒れた。三人の世話を焼く雨月の首根っこを土方が引っ張る。

「本来ならてめえら叩き斬ってやるとこだが、生憎、てめえらみてえのと関わってる程、今は俺達も暇じゃねえんだ。消えろや」
「幽霊怖くて何にも手に付かねえってか」
「可哀想アルなぁ…、トイレ一緒に着いて行ってあげようか?」
「武士を愚弄するかぁ!トイレの前までお願いします!」
「お願いすんのかい!」
「いや、さっきから我慢してたんだ。でも、怖くてなぁ…」

「ほら行くヨ〜」と神楽に連れられ、近藤がトイレへと向かう。土方は近藤に対し、そんな人生で良いのかと問うが、本人は構わないらしい。土方は深い溜息を吐いた。

「てめえら…頼むからこの事は他言しないでくれ。頭下げるから」
「なんか相当大変みたいですね、大丈夫なんですか?」
「情けねえよ。まさか幽霊騒ぎ如きで隊がここまで乱れちまうとは…」

実体があれば刀で斬ればいいが、実体の無い幽霊はどうすることも出来ないと土方は愚痴る。

「え、何、御宅、幽霊なんて信じてるの?痛い痛い痛いよ〜、お母さーん!ここに頭怪我した人がいるよぉ〜」
「お前、いつか殺してやるからな!」
「まさか土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女」
「分からねぇ…だが、妙なモノの気配は感じた。ありゃ多分、人間じゃねぇ」
「「痛い痛い痛いよ〜!お父さーん!」」
「絆創膏持ってきてー!出来るだけ大きな、人一人包み込めるくらいのー!」
「お前ら、打ち合わせでもしたのか…!」

三人のやり取りを静かに聞いていた新八が、「赤い着物の女か…」と呟く。新八は、自分の通っていた寺子屋で一時、流行っていた怪談話があると語り出す。

「夕暮れ時にね、授業終わった生徒が寺子屋で遊んでいるとね。もう誰も居ない校舎に赤い着物を着た女が居るんだって。それで『何してるんだ?』って聞くとね…」

その時、遠くから近藤の叫び声が聞こえた。土方、沖田、銀時が厠を目指して駆け出す中、新八は、その場に蹲り、頭を抱えて震える雨月を見ていた。

「…雨月さん、あなた、もしかして怪談話も苦手なんですか?」
「ぅ、うぅ〜…、新八君〜…」
「だ、大丈夫ですよ!泣かないでください!ほら、僕が着いてますから!」
「黙っててね?言わないでね?バレたら僕、…殺すからね?」
「誰を!?」

他の隊士達同様、『赤い着物の女』にやられた近藤は、寝込んでしまった。「赤い着物の女が…来る、来る…!」と魘される彼の周りに座って談義する。

「この屋敷に得体の知れねえモンが居るのは確かだ」
「やっぱり、幽霊ですか?」
「あぁ?俺はな、幽霊なんて非科学的な物は信じねえ。ムー大陸はあると信じてるがな。はぁー…アホらし。付き合い切れねえや。てめえら、帰るぞ」

そう言って立ち上がった銀時の手は、神楽と新八の手を繋いでいた。これはなんだと問う新八と汗ばんでて気持ち悪いと言う神楽に、銀時は、二人が怖いと思って気を遣っているんだと主張する。

「あ、赤い着物の女」

沖田の発言に、銀時は押入れに飛び込み、土方は壺の中に頭を突っ込み、雨月は沖田の手を握り、目を瞑って震えていた。



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