Wisteria

□第一話
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「言っとくがな、俺はお前らの為に働くなんざごめんだぜ」
「可笑しいな、アンタは俺と同種だと思ってやした。こういうモンは虫唾が走るほど嫌いな質だと」

「…それはアイツも同じだろ」と銀時はぼそりと呟く。雨月もまた、この手の物は虫唾が走るほど大嫌いだ。目敏い雨月は、きっとこの場所のことも把握している。この場所を潰すか、御上に取り入るかを天秤に掛け、雨月は御上を選んだのだろう。未来ある選択だと銀時は思った。但し、同意はしない。

「あれを見てくだせェ。煉獄関最強の闘士『鬼道丸』…ヤツを探れば何か出て来るかもしれやせんぜ」
「オイ」
「心配いりませんよ。こいつは俺の個人的な頼みで、真選組は関わっちゃいねェ。ここの所在は俺しか知らないんでさァ。だから、どうかこのことは近藤さんや土方さんには内密に…」

そう言って唇に人差し指を添えた沖田を、銀時は不満気に見やる。
スポットライトに照らされたリングの上には、赤い鬼のお面を被った鬼道丸が堂々たる姿勢で立っていた。



「あ、やべえ。会員証忘れた。雨月、俺の部屋から取ってきてくだせェ」

そう沖田に頼まれて一人屯所に戻った雨月は、沖田の部屋を見て嘘を吐かれたのだと気が付いた。机の上にあると聞いてきた会員証はどこを探しても見つからなかったのだ。

暫くして、沖田は土方と一緒に屯所に戻ってきた。二人の前を素通りし、部屋に戻ろうとした雨月の肩を土方が掴む。

「何、自分は関係ねえみたいな顔して歩いてんだ」
「えぇ…。沖田さん、何やらかしたんですか」
「しらばっくれんな。てめえの差し金だろ」
「しかも、僕のせいにしたんですか。もう、やだ、この人…」

嘘を吐かれた上に罪を擦り付けられた雨月は倦怠感を覚える。沖田を見ると彼は少し申し訳なく思っているようで、その様子が珍しく、雨月は一先ず、二人の話を聞くことにした。そして、沖田が煉獄関に探りに入ったことを知り、「どうしよう、どうしよう…」とブツブツと独り言を呟いて部屋の中を右往左往し始めた。
その反応は、土方の予想とは反していた。

「だから雨月は、無関係だって言ったんでィ」
「仕方ねえだろ!あの一帯は雨月の管轄なんだぞ!」
「違います!僕の管轄は…いや、僕の管轄にすればいいのか。あー、無理だ。だってまだ計画が…」

ああでもない、こうでもないと雨月は頭を悩ませる。

「とりあえず、銀さんには依頼の中止を。一般市民を巻き込むわけにはいきませんからね。それと用事を思い出したので、少し出てきます」
「待ちなせィ、雨月!」
「沖田さん」

襖を開け放った雨月は、夕焼けをバックに微笑む。

「あなたが真面目な人だと知れて僕は安心しましたよ」

その綺麗な笑顔に沖田と、初めて雨月が笑っているところを見た土方は口を開けて固まった。

「まぁ、でも土方さん?沖田さんにはよく言っておいてくださいね」

部屋を出ると静かに襖を閉めた。



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