Wisteria

□第六話
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近藤がそばに居てと願うので、土方を見張るついでだと近藤の隣に正座した。土方は雨月の視線を逃れるようにそっぽを向き、沖田はツラい、苦しいと呻き、近藤は雨月がどこにもいかないようにと手を繋ぎ、じっとその顔を見つめる。

「あー…雨月が腹踊りしてくれたら楽になりそう」
「しません」
「あー…雨月が全裸で逆立ちしながら町を歩いてくれたら楽になりそう」
「しません」
「あー…雨月が」
「黙らないと舌を引っこ抜きますよ」
「病人になんてことするんでィ」
「病人だから何です。全ての我儘を聞いてもらえると思わないでください」
「…雨月が冷てェ」
「いつも以上に冷たいよね。本当に心配してるのかってくらい冷たいよね」
「じゃあ、もう知りません。勝手にくたばってどうぞ」
「やだあああ!」

近藤が必死に雨月の腕を掴んで引き止めた。

暫くして、部屋に寝息が聞こえはじめる。三人が眠っている事を確認し、雨月は席を立った。雨月が三人分のお粥を拵え、部屋に戻ると土方が居なくなっていた。雨月が予想していた通りであった。面倒臭い人だと溜息を吐いた時、襖が開いて土方が戻ってきた。

「…厠に行ってたんだよ」
「そうですか。ご飯は食べられそうですか?」
「いらねえ…」
「では、お腹が空いたら仰ってください。また作りますので」

雨月はお昼ご飯だと沖田と近藤を起こす。土鍋で作ったお粥を小鉢に取り分けて二人に渡す。寝起きの二人は、小鉢を受け取ったまま、惚けていた。

「近藤さんも沖田さんも、しっかりしてください。ぼーっとしてると火傷しますよ?」
「…食べさせてくれないの?」
「近藤さん…、あなたって人は…」

雨月は頭を抱える。近藤は期待の眼差しを向ける。

「…一口だけですよ」
「うん」
「その後は自分で食べてくださいね」
「うん」

小鉢を受け取り、蓮華にお粥を掬って近藤の口元に持っていく。湯気の出るお粥を見て、近藤はちらりと雨月を見る。雨月は一口の我慢だとお粥を冷まし、近藤に食べさせた。

「んまい」
「それは良かったです」
「あー…」
「一口だけと言いましたよね」
「あー…」

諦めて二口目を食べさせる。三口目、四口目と続け、近藤は一杯目を完食した。二杯目は自分で食べるようにと小鉢を渡すと、素直に食べ始める。

「雨月ー…」
「はいはい、お待たせしました…って」
「食べさせてくだせェ」
「…あのですね」
「一人やるのも二人やるのも同じでさァ」
「…食べさせてもらう側が偉そうに」
「あーん」

こうして沖田にも食べさせていると、視線を感じ、雨月は土方を見る。

「…土方さんも」
「自分で食べる」
「………」
「自分で食べる」

誰も何も言っていないと思った。土方が食べ終わるのを待つ間、先ほど剥いた林檎を取りに戻る。塩水に漬けておいた林檎の兎は綺麗に耳が跳ねていた。

「うさぎさんだー!わーい!」
「…だろうなと思って作りました。ですがその前に、薬を飲んでください」
「やだあああ!薬はやだああああ!」
「近藤さんは要らないと。沖田さんは飲めますよね?」
「馬鹿にすんな、これくらい一人で飲めらァ」
「だったら、ご飯も一人で食べてくださいよ」
「それはそれ、これはこれでィ」
「土方さんもどうぞ」
「ん。美味かった」
「お粗末様です」

土方に薬と林檎を渡し、小鉢を回収する。薬を飲んだ沖田は、近藤に見せびらかすように林檎を食べていた。

「やめなさい、本気で泣きそうじゃないですか」
「えー」
「ほら、近藤さん、ウサギさんが薬を飲むのを待ってますよ」
「早く飲まないと俺が近藤さんの分も食べちまいやすぜ」
「う、うさぎさん…!」
「だから、やめなさいって」

雨月は沖田と近藤の間に入り、近藤の分だと渡す。

「飲まなくてもいいですよ。さっきも言いましたが、無理矢理飲ませようとは思ってませんから」
「…雨月」
「飲んでも飲まなくても、これはあなたの物ですよ」
「………」

しかし、近藤は薬を口に含み、一気に水を流し込んだ。苦いと涙目になる近藤に林檎を差し出して、雨月はよしよしとその頭を撫でる。

「ちゃんと飲めるじゃないですか。流石、近藤さんですね」
「…えへへ」

照れ笑う近藤は、嬉しそうに林檎を食べた。

次の日にはすっかり元気になった三人の姿があり、隊士達は雨月に感謝した。しかし、その雨月が体調を崩して倒れるのはまた別の話である。



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