RPS

□御都合主義
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「コイツが理央・雨月だ」

そう言って紹介されたのはいつだったか。
後ろ手に拘束され、体の自由を奪われた牧師風の東洋人の男を連れたフューリーは、なんて事ない光景だという様子でスティーブの前に現れた。細身の体は170cm弱ぐらいだろうか。東洋人の特徴とも言える艶やかな黒髪は乱雑に切られ、ところどころ長短に差があり、睨みを効かせる黒目は大きく、筋の通った小さな鼻の下にあるはずの口は灰色のダクトテープで塞がれており、言葉にならない声を上げて何かを叫んでいた。フューリーに「静かにしろ」と膝の裏を蹴られてその場に跪いた男は更に何かを叫び、フューリーの太腿に頭突きした。

「あー…、それで彼がなんだって?」

スティーブは言葉を選び兼ねる。目の前の状況に理解が追い付いていなかった。フューリーの説明によれば、理央は触法精神障碍者…つまり、犯罪を犯した精神患者だという。何でも『人ならざるモノ』が見えるとして悪魔祓いだ何だと怪しげな儀式を行い、多くの人の命を奪ったそうだ。とある街の精神病院に収監されているのをコールソンが見つけ、S.H.I.E.L.D.でその身柄を引き取ったらしい。

「キャプテン、言っておくがコイツは本物だ」
「本物の殺人鬼?」
「違う、本物の霊能者だ」
「…つまり、君は信じているのかい?幽霊の類を」
「勿論。と言っても、俺が信じてるのはコイツ自身だがな」
「ただの人殺しだろう?だから君も彼を警戒して拘束している」
「これはコイツがあまりにもうるさいからだ」
「うるさい?」

スティーブが小首を傾げると、ビリッと勢い良く剥がされるダクトテープ。理央は悲痛に声を上げ、テープを引き剥がしたフューリーに噛み付くように吠えた。

「Fuck!てめえ、マジでふざけんなよ、この単眼野郎!唇切れたじゃねえか!」
「そんなことより言葉遣いに気を付けろ。また口を塞がれたいか?」
「ハッ、やれるもんならやってみろ!右目を抉り出して全盲にしてやる!」

フューリーは深々と溜息を吐き、ご覧の通りだと言いたげな表情でスティーブを見る。

「とんだ荒くれ者だな。聖職者とは思えない」
「黙れ、『怪物』」
「モンスター?それって僕のことかい?」
「欲深き人工物め。お前以外、誰がいる」
「あ、今のはちょっと聖職者っぽかった」
「舐めてんのか」

眉間に皺を寄せ、眼を飛ばす理央。
その下唇の左端は血が滲んで赤くなっていた。

「血が出てるよ」
「うるせえよ!さっき切れたって言っただろーが!おい、"ニコラス"!早く拘束を解け!」
「いいか。解いてください、だ」

「Please」とゆっくり発音したフューリーに対し、理央は「Present "Fuck" You!」と言ってフューリーの太腿に噛み付いた。当然、フューリーは反撃する。ガンッと頭を殴り、その勢いのまま理央を組み敷く。

「いい加減にしろ。躾られたいか」
「呪い殺してやる…!」

スティーブはその時、ひんやりとした冷気を足下に感じた。いがみ合う二人に割り込み、話が進まないからと落ち着かせると、フューリーは疲れた顔をして「後は理央から聞いてくれ」と理央の体を起こした。

「ちょっと待ってくれ、彼は」

ガチャンと音が鳴る。拘束を解かれた理央は「あー、くっそ体痛え」と大きく肩を回し、隙を突いてフューリーを殴ろうとするが見事に空振った。

「S.H.I.E.L.D.は理央のことも戦力に入れて考えている。あんたの口から説得してくれ」
「何をどう説得するんだ、説明も無しに!犯罪者まで巻き込んで一体何を企んでいるんだ、フューリー!」
「安心しろ。そいつは犯罪者じゃない」

ろくな説明もせず、退出するフューリー。その背中に中指を立てる理央。スティーブは、まさかこの行動を制限する為の拘束だったのかと唖然とする。



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